地球と女の子(インコちゃんは除く)に優しく、ヤローとヴァンパイアに厳しく、丸山田 誠一郎
「黒魔刃ねえ。中二くせー(笑)なネーミングセンスだな。ある意味ウけるわ」
印藤は地面に右の拳を叩きつける。叩きつけられた地面は真っ二つに割れ、小泉の足場を崩した。
小泉は足場の崩壊から逃れるため、屋敷の天井へ飛び移るとそこから春川に向けて右の手の平を向ける。
春川は迫った小泉の黒魔刃を、ステークの先端で突き返し、弾く。
「オレのモットーは、地球と女の子(インコちゃんは除く)に優しく、ヤローとヴァンパイアに厳しくだぜ? あんたにゃダブルで厳しくいくぜ!」
「あのクソ野郎。俺を省きやがった……覚えてろよ」
印藤がこっそりと呪いの言葉を小泉に向かって踏み込んだ春川の背中に放ったが、それよりも早く背後から春川を小泉の黒魔刃が貫いた。
春川は空中で停止し、そのまま墜落する。幸い、軽く肩をかすっただけのようで元気よく起き上がると、やかましく抗議の声を上げる。
「いでえ! 何すんだよ、インコちゃん! オレがお婿にいけない体になったらどう責任とってくれるのさ!」
「俺じゃねえ! 俺がお前ヤるなら、後ろから刺さずに鈍器で頭蓋をド派手に砕いてるわ!」
春川は『それもそうか』と納得し、背後から貫いた物が小泉の黒魔刃であったことをそこで理解する。
「小泉 浩之の黒魔刃は長さも、太さも形状すらも変形させる厄介な代物だ」
合流した留子が、印藤達の背中に向けて話す。その声につられるように三人は顔を留子のほうに向けた。
「正直、正面からマトモにやり合うのは不利だ。例えヴァンパイアとヴァンパイアハンターが手を組んだところでな」
留子は吉村の目を見てそういった。留子はすでに状況を理解していたのであろう。吉村が仲良く一緒に戦っている状況に一瞬驚いたが、相手が小泉 浩之ならば話は解る。
『お父様の命令は絶対』だからだ。確実に命令を完遂するならば、互いに利用しあった方がいい。ただ、何故アーノルドを小泉に差し向けなかったのかは、疑問ではあるが。
「お前ら、ヘタに近づくなよ。小泉はBランクヴァンパイアだが、限りなくAに近い。いや、そもそもランクで考えても意味が無い相手だ。黒魔刃は私が引き付ける。スキができたら一気に踏み込め。お前らならできるだろう?」
「トメちゃん、あぶなくねーか? なんなら、オレも一緒に!」
留子はフっと軽く微笑み、背中を向ける。
「足手まといだ」
留子は駆けた。
そうだ、極力危険な仕事は私が引き受ける。例えその先に死が待っていても。元はと言えば、父親のまいた種なのだから、この種は娘である私が一つ残らず刈り取る。
それが巻き込んでしまったあなた達への、贖罪になるとは思えない。
――それでも。