年寄りの冷や水、丸山田 誠一郎
春川も印藤に続き、庭へと走り出し吉村もまたそれに倣う。
誠一郎も吉村を追うが、ドレスの裾がテーブルに引っかかり、盛大にヘッドスライディングをした。転んだ瞬間に布が裂ける音が聞こえたので、下半身に目をやると、超ミニスカ状態で誠一郎のブタのキャラクターがプリントされたトランクスが丸見えだった。
そういえば、留子がかなり大金をはたいてレンタルしたのだという事を思い出す。初任給は大丈夫なのだろうか? という不安を押しのけ、誠一郎は立ち上がると印藤達の後を追った。
「加奈子ちゃん、吉村さんはどこだい?」
庭にたどり着き、まず目に付いたのが印藤の華奢な背中だった。吉村から聞き出さねばならない。妻、美雪はどこへ消えたのか。美雪とは、一体どういう関係なのか。
「デブ、あぶねーから離れてろ」
印藤は振り向かず、ポンと誠一郎を左手で押しのけた。ハズなのだが。
「あ、やべっ。今、Zealotやってんだっけ」
振り向いた印藤は、上半身ごと壁にめり込んだ誠一郎に向けて舌を出し、『やっちゃった』と照れ隠しして戦線に復帰した。
庭では、春川と吉村が挟み込む形で小泉と対峙している。小泉は目をつむり、微動だにしない。
「以外に手こずる。特に、印藤 加奈子。その薬物はやめろと忠告したはずだがな」
「うるせーな、そういうのを、年寄りの冷や水って言うんだぜ。始めたゲームはどんなクソゲーでも俺は最後までやるし、プレイスタイルも変えない。勝つまでやる! 何度でもな」
「うわ、なんだかインコちゃん、最近カッコいい」
「よかろう。なら、ワシも見せよう。肩がこってしかたがない、若い者には体力で負ける」
小泉は目を見開くと、両の手の平を天に向けた。
「お前達には、ワシの攻撃手段が理解できていたか? もっと解りやすいように見せてやろう」
その刹那に、小泉の手の平から生え出た黒い刃。長さは3メートル程はあり、その刃に触れた木が一瞬で切断された。
「これがワシの肉体の一部ともいえる剣。『黒魔刃』。太さや長さはワシの意思一つでなんとでもなる。この形態にしたのは田中 聖一郎とやり合った時以来か」
「田中? 田中って、トメちゃんと同じ名字だよな。何かカンケーあんのか?」
「それは本人に直接聞くといいでしょう」
吉村が親指を向けた先には、こちらに向かって走る留子の姿があった。
「とにかく、これで4対1。役者はそろったわけです。さっさとケリをつけましょう」