コワレタおもちゃ、丸山田 誠一郎
続いて第三射、第四射、第五射――。全ての弾がアーノルドに命中した。
腹部、頭部、左胸、車椅子の車輪を左右一発づつ。計5発。ライフルの装弾数は5発なので、全弾を撃ち尽くしたことになる。
アーノルドは車椅子から放り出され、地面にうつ伏せに倒れていた。起き上がる気配は無い。車椅子を破壊した今、彼には逃げる手段も無いのだ。
「弱いものイジメは嫌いなんだがな」
留子は止めの一撃を加えるべく、ライフルに弾を装填しようとライフルに視線を移した。時間にして僅か2,3秒。ほんの少し目を離しただけだというのに、すでにアーノルドの姿はそこにはなかった。
車椅子はすぐ目の前で車輪という足を失い、その本来の役目を果たすことは無い。一体どこへ?
地中で何かが蠢くような、そんな感じの音がして留子は視線を下へと向ける。目が合った。壊れたロボットの生気の無い紅い目が、らんらんと輝き嬉しそうに笑っていた。それを見た留子の背筋が凍り付く。アーノルドが地中を掘り進み、留子の真下から顔を出したのだ。
「どんな躾で育ったこの根暗野郎!」
留子は後方へ跳躍しつつ、地面に向けてライフルを発射する。しかし、黒い4本の手が一つに重なり、それを受け止める。
「留子お姉さま、もっと遊びましょう。アーノルドは幸せです、楽しくて楽しくてタノシクテタノシクテTANOSIKUTETANOSIKUTE!!」
アーノルドは地中から二本の足を引きずり出し、這い出た。足は黒一色、まさに暗黒の塊で、背中の4本の手も合わせて、計6本の黒い触手が老人の体から生え出ている。
「触手責めとはなかなかマニアックな奴だな。春川が聞いたら興奮するぞ」
アーノルドは背中の4本の手を留子に伸ばした。留子はそれを避けながら携帯を取り出し、印藤に電話をかける。
「私だ。ちょっと面倒な事になった。こっちは問題ないが、計画は中止だ。一旦引き上げるぞ、お前らは車で待機。私もすぐに片付けて向かう」
再度、アーノルドの猛攻。しかし留子はそれを踊るようにかわす。腕の一つが留子の脇をすり抜け、パーティー会場である洋館の壁に直撃した。
『――――――――!!』
電話の向こうで印藤が何やら叫んだが、留子の耳には入らなかった。洋館の方をちらりと見ると、明かりが一斉に消えており、何らかの異常事態が発生しているのがわかった。
「おい、何があった? 聞こえるか? 印藤?」
『……………………』
しかし、印藤からの返事は無く、唐突に通話は打ち切られた。
「あいつら、大丈夫か?」
再三に渡るアーノルドの攻撃。留子はそれをまたよける。よける。よける。が、唐突に現れた黒い腕に反応が一瞬遅れてしまう。とっさにライフルを盾にしたが、ライフルは砕け留子の体に直撃してしまった。
「ちっ」
余裕でかわし続けていたはずが、急に攻撃を受けた。壊れたアーノルド人形はカラカラと笑い、焦点の定まらない瞳をぐるぐる回し続ける。
「留子お姉さま、楽しい楽しいタノシイタノシイTANOSHIITANOSHII!!」
アーノルドはいつの間にか、2本の腕を腹から生やしていた。それが命中したのだ。
「こっちは楽しくないんだがな……」