危険な人形遊び、丸山田 誠一郎
留子は屋敷から少し離れた所に生えている一本の木の上にいた。狙撃用のライフルをセットし、スコープを覗き見る。
ちょうど、小泉がスピーチする壇上に向けて照準を合わせる。このライフルは特別製だ、弾丸に銀を使用しており先日相対した吉村クラスの相手でも、難なく一撃で仕留めれる。
小泉 浩之は46年を生きるBランクヴァンパイアであるが、不意を狙えばどうということはない。
「あと、54秒……か」
留子は時計を見て、パーティーの開始時刻を確認した。息を落ち着かせ、静かにその時を待つ。『T』が来る前に少しでも後顧の憂いは断っておきたい。小泉を潰すことができれば、この日本は完全にヴァンパイアハンターの勢力下にはいる。
これはチャンスなのだ。
その時、留子は何かを感じた。いつか感じたことがある、懐かしい気配を。ふいにきりきりきりっと耳障りな音が聞こえて、反射的にそちらを向いた。
途端、黒い影が留子を襲った。木の根元から生え出たように、4本の黒い手が留子に覆いかぶさろうとにょきにょきと伸びてくる。
留子は舌打ちすると、木の上から飛び降り、四本の黒い影の持ち主と対峙した。
「お久しぶりです、留子お姉さま」
「相変わらず壊れた人形だな、アーノルド」
車椅子に身を預け、生気を感じることが出来ない瞳でアーノルドは口から音を発した。
「今日はあの小うるさいエリーは一緒じゃないのか?」
「エリーお姉さまは、昨日たいへんなお怪我をされましたので……私に留子お姉さまの相手をするように、と」
「誰がお姉さまだ。お前のような弟を持った覚えは無い!」
留子はライフルの銃口をアーノルドに向けて突きつける。
「同じ父親を持つ兄弟なのですから……何かおかしいのでしょうか?」
「私の父親はもういない。田中 聖一郎は死んだ。99年前に死んだ。目の前で死んだ! だから、『あれ』は違うっ!」
留子は興奮した様子で、顔を真っ赤にして叫んだ。
「私はお前らを一人残らず殺す。それが死んだ兄と姉と、田中家に仕えてくれた使用人達の無念を晴らせる唯一の方法だからだ!」
「そうですか……ですがお父様は今でも留子お姉さまのことを――」
留子のライフルから弾丸が発射され、アーノルドの腹部に命中し、言葉は途中で遮られた。
「しゃべってる暇があるならさっさと来い、最初で最後の兄弟ゲンカだ。お姉ちゃんが遊んでやる、壊れたアーノルド人形でな」
再び留子のライフルが銃口から火を吹き、アーノルドの頭部を貫いた。