御馳走お持ち帰り作戦開始、丸山田 誠一郎
留子と別れた3人は、入り口で招待状の確認を受ける為、列に並んだ。
「あれ、てかさ。トメちゃん別に中に入らないなら、ドレスなんか着なくていいんじゃないの?」
春川の疑問に誠一郎も同意する。
「そういえば……そうだね。あんな動きにくそうな格好、別にしなくても」
「お前らわかってねーな。女はいくつになっても乙女なんだよ。留子の奴、お前らが着替えてる間に一人で子供みたいにはしゃいでたんだぜ。口止めされてっけど、俺が口を滑らしたとかぬかしたら、お前ら解ってるだろうな?」
誠一郎と春川は同時にコクコクと懸命に頷いた。
「お客様、招待状を確認させていただきます」
その言葉を受け、誠一郎は偽造された招待状を受付に差し出した。
「これはこれは。フランスからおいでのマリーダ様ご一家ですね。遠路はるばるようこそいらっしゃいました。今宵はどうぞ心行くまでお楽しみくださいませ」
どうやら、誠一郎達はフランスから来たマリーダ母娘という身分らしい。
「ディス イズ ア ペン!」
誠一郎は受付を指差してそう言った。一応、フランス語の発音で言ったつもりらしい。春川は『何言ってんだ、マルちゃんは……』とあきれ返っていた。
「ザット イズ ア ペン!」
春川は受付を指差してそう言った。一応、フランス語の発音で言ったつもりらしい。印藤は『こいつらアホか』とあきれ返っていた。
「Merci」
印藤は普段見せたことの無い、愛らしい笑顔で優雅に振舞った。
その様子に誠一郎と春川は『なんでイット イズ ア ペン!』じゃないんだと首を傾げまくる。
「お前らアホだろ」
と印藤が二人を睨みつけるが、すでに彼らの姿はそこにはなく、テーブルの上に盛り付けられた御馳走の前でタッパーのフタを開け、戦闘態勢に移っていた。
「すげーすげー! こっちは北京ダックだぜ、あっちは大トロの寿司じゃねーか。こっちはうまそうなローストビーフ! 和洋中そろってんのか!」
「春川くん、まずは順当にお寿司からいこう。ほら、タッパー開けて、流れ作業で行くよ!」
印藤は、二人の息の合った御馳走お持ち帰り作戦を見て、『ありゃ良い姑と婿になるな』と呟き、ブレイカーの場所へと移動した。
「おい、マルちゃん。たいへんだ。中華がすでにない! 黒いドレスの女がすごい勢いで重箱でかっさらっていったらしい!」
「ええ!? 誰だい、それは?」
「ほら、あそこ!」
春川の指で差された先には、パエリアを重箱に収めた美雪と吉村の姿があった。
「何やってるんだ……」