ブレスケアだ、丸山田 誠一郎
少女の怒りは、ごもっともだった。だが、狙おうと思って狙ったわけではない。本当に偶然、手が震えて……。
「どうやったら、そんなに器用に狙いを外せるんだ」
外しようがないくらい、的となる男のヴァンパイアが一直線に向かってきているのに、弾は少女の右手に申し訳なさそうに収まっていた。
「あ……ははは、失敗失敗。今度こそ狙――」
謝罪の弁を述べる前に、ヴァンパイアの男に腹をつかまれ、お人形さんを抱きかかえるが如く持ち上げられる。いや、豚のぬいぐるみを持ち上げると言ったほうが、解りやすいだろう。
「く……苦しい。たずけてぶぼひい」
日本語に訳すと『助けてください』と豚のぬいぐるみが言った。
腹を刺激されたせいか胃から空気がこみ上げ……。
「げっぷ」
よほど臭かったのだろう、ヴァンパイアの男は地面をのた打ち回っている。
そういえば、今日の4食目にギョウザ定食を食べたのだった。一日7食の内、4食目に食べたギョウザ定食と、6食目のぺペロンチーノが誠一郎に力を貸してくれたのだ。
勝機が見えた。ヴァンパイアはニンニクに弱いというのは本当らしい。ならば……零距離で発射する!
誠一郎はヴァンパイアに近寄りふ~と息を吹きかけた。
ヴァンパイアはさらに激しく苦しみ始める。
もっとも、ギョウザやぺペロンチーノを食べていなくとも、効果はありそうだが。
「これは予想外。そんな戦い方もあるもんだな」
ない。
このまま全力で息を吹きかけてやる! と思ったのも束の間、ヴァンパイアは起き上がり、誠一郎を突き飛ばした。少女の隣の鉄棒に豚の丸焼きが如く収まる。
顔面から突っ込んだせいか、メガネにひびが入ってしまったようだ。だが幸いな事に顔以外の箇所は、誠一郎を包む脂肪の鎧がダメージを最小限に抑えた。豚の丸焼き状態から抜け出すと、再び銃を構えなおす。
ひび割れたメガネのレンズの向こうを見据え、狙いをつける。今度こそあいつをしとめてやる。さっきまでの頼りない顔が、野生のイノシシの様に猛々しかった。
一発の弾丸がヴァンパイアを貫いた。
「え、まだ撃ってないのに……?」
撃ったのは誠一郎ではない。
――少女であった。
「おっさん。あんた私が今まで出会った中でサイコーだよ。サイコーにドヘタ。ってわけでテストは不合格」