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50代から始める基礎戦闘術  作者: 岡村 としあき
第四章 『丸山田中年の事件簿』
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春川in丸山田家その1、丸山田 誠一郎

 『丸山田』。珍しい名字の表札を目の前にして、春川 優人は髪のセットとブレスケアに余念がなかった。


 時刻はとうに夜の6時を過ぎ、約束の5時を一時間もオーバーしてしまっている。その為、本来ならドアを蹴破り颯爽と瑠奈の前に現れなければいけないはずだが、初めてやってきた彼女の家を前にして、だらしない格好ではいけないと思い直し、身支度を整えていた。


「行くぜ、オレ」


 自分にエールを送り、インターフォンの呼び出しボタンを押す。数秒間の後、若い女性がドアを開けて顔を出した。


「あら、いらっしゃい。春川くんね? あがってちょうだいね」


「は、はい。お邪魔します」


 美雪に玄関に通され、靴を脱ぐ。脱いだ靴は綺麗にそろえて、ドアの方へ向けておいた。美雪に瑠奈の部屋の前まで案内され、ドアをノックする。


「や、やあ。るーちゃん。ごめんよ? ちょっと用事が……」


 まるで自動ドアのように開いたドアから私服姿の瑠奈がぷっくりとむくれた顔を出し、春川は口の中に苦い味がこみ上げた。


 (怒ってる!)


「先輩、何してたんですか?」


 春川は視線を泳がせて苦し紛れに答えた。


「あ~。あれ! 信号待ちしてたら、目の前の妊婦さんが急に産気づいちゃって! なかなか救急車が来ないからおぶって病院連れて行ったんだけど、産婦人科の先生がいなくて代わりにオレが赤ちゃんをとりあげたんだ!」


 瑠奈の目はまだ疑いの眼差しだ。


「元気なかわいい男の子だったんだよ! こう、丸っこくてさ! 将来、オレと同じくらいイイ男になるね、ありゃあ!」


「すごいですねえ、これで8人目ですね、先輩がとりあげた赤ちゃん」


 まだ疑いは晴れない。


「田舎から出てきたお婆ちゃんに道聞かれちゃってさあ。オレ、頼まれると断れないタイプじゃない? 懇切丁寧に道を教えてたら、ついつい時間食っちゃって! 奈良の東大寺まで付いて行っちゃたよお。舞妓さん達キレイだったなあ」


「前回はアメリカの首都ニューヨークに案内したんでしたっけ? 首都はワシントンDCですよ。あと、舞妓さんは京都です」


 まだまだ疑いは晴れない。


「あっれ~、そうだったっけ!? わは、あははは」


「ウソなんて付かずに、正直に言ってくれればいいのに。かなぴょんから話はちゃんと聞いてます」


「え? インコちゃんから?」


 春川の頬を、嫌な汗が一筋流れた。


「大変でしたね」


 瑠奈の目がなぜか涙ぐんでいる。


「ん、うん? ああああ! そうそう、もう、たいへんだったのよ!」


 なんとかこの場を凌げればいいと思い、春川はとにかく必死に相槌を打った。


「あたし、先輩がそんな事に巻き込まれてるだなんて……。何で、早く言ってくれないんですか!」


「あああ、ごめん、よ?」


 瑠奈は一体何を印藤に吹き込まれたのだろうか?


「でも、先輩には私が付いていますから、安心してください! 例え世界を敵に回しても、私は先輩の味方ですから!」


 がっちりと瑠奈に腕をつかまれ、春川はしばし呆然となる。かなり壮大な物語のようだった。


「とにかく、入ってください。すぐにお茶持ってきますから、適当にくつろいでくださいね!」


 瑠奈は春川を無理矢理部屋の中心に座らせた後、元気良くドアを飛び出し台所へと向かった。春川は部屋に一人取り残され、急に不安になった。所在なさげに視線を彷徨わせる。部屋は小奇麗に片付けられており、机の上には写真が飾られていた。写真には、とても仲が良さそうに寄り添う二人の男女が写っている。男の方は春川にも見覚えがあった。丸々太っていて、メガネをかけた冴えない親父……。


「マルちゃん……だよな、これ? 何でるーちゃんとこんな仲良さそうに写真写ってんだ?」


 春川の脳裏にある一つの嫌な予感が生まれた。いや、それは悪寒といってもいい。


「まさか」


 写真を手に取り、まじまじと見る。この4段腹はどこからどう見ても、マルちゃんだ。そこで、春川の中で、予感は確信へと変わった。


「まさか、るーちゃんって……マルちゃんと付き合ってた……のか?」

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