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50代から始める基礎戦闘術  作者: 岡村 としあき
第四章 『丸山田中年の事件簿』
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女の子は元気が一番、丸山田 誠一郎

 印藤は噴水の男をそのまま水攻めにして動けなくしたあと、外灯を裏拳でへし折り、その上にいた男を引き()り下ろした。男は完全に戦意喪失してしまい、四つん()いになってなおも逃げようとするが、印藤に背中を足で押さえつけられ、観念した。踏まれているにもかかわらず、男の顔が至福に満ちていたのは何故だろうか。


 印藤は折れた外灯を両手で持ち、時期の早いスイカ割をそこで行う。充分に加減はしたので、男は気を失っているだけのようだ。


 印藤はトドメを刺すべく聖水を使おうとしたが、トイレから仲睦まじく出てきた二人の男達の姿を目の端にとらえ、動きを止めた。


 春川に寄り添うように、 トイレに逃げ込んだ男が春川の背中に右手を回し、左手で来世でも添い遂げようとばかりにがっちりと春川の左肩をつかんでいる。


 春川は女だけでは満足できず、ついに男にまで手を出すようになったのだろうか?


「こ、この男の命が惜しかったら、武器を捨てて大人しくしやがれ!」


 どうやら、春川はトイレ男に人質にされたらしい。男はナイフの様な刃物でも持っているらしく、春川がせわしなく後ろを気にしていた。


「インコちゃん、お願いだから大人しく、かわいらしく、おしとやかにして! 無理だと思うけど!」


 無理とはなんだ。と、印藤はキレた。印藤の父親は大きな病院の院長を務めており、家庭は裕福である。家の中では『家族の誰からも好かれる加奈子ちゃん』を演じているので、決して無理というわけではない。


「ああああ! ウゼーんだよ!」


 印藤は、へし折った外灯で男もろとも春川を横一文字に薙いだ。春川は男がクッションになったおかげでさほどダメージを受けておらず、すぐに立ち上り、印藤に涙ながらに感謝の言葉を述べる。


「やっぱ女の子は元気が一番だよね! インコちゃんはそのままが一番だよ! その人殺しの様な目つきも、幾千の猛者達の血を吸い尽くした赤い髪もステキ!」


 そう言って春川は印藤に飛びつこうとしたが、印藤と春川の鼻先の空気が一瞬震え、コンクリートで舗装された地面をキレイに縦に割った。二人の間に戦慄が走り、一瞬戸惑うが、印藤はすぐにその発生源を探り当て、それを見つける。


 男がいた。40前後で、眉間に深く刻まれたしわと、上唇の上に整えられた髭。白髪交じりの髪が肩まで掛かりきっており、イメージ的には料理漫画でおなじみの某会員制料亭の海○雄○に口髭をトッピングした感じか。和服に身を包んだその男の全身からは、只者ではない気配を感じさせた。


「家の子供(クズ)達が失礼をした。ヴァンパイアハンターを見ると、ついつい頭に血が昇ってしまうようだ。ワシの監督不行き届きを許して欲しい」


 地の底から響くような低い声。だが、不思議と敵意や殺気などは感じることが出来ない。


「ワシは小泉家当主、小泉(こいずみ) 浩之(ひろゆき)。実は晩餐まで時間を持て余してしまってな。よければ少々おしゃべりの相手をして欲しいのだが?」


 印藤はその名前に聞き覚えがあったのか、少々驚きを含んだ表情で問い返した。


「小泉 浩之……小泉家の当主様じゃねーかよ。俺とガールズトークでもしてーのか? 俺はスイーツよりこっちの方が好みなんだけどなっ!」


 言葉と同時に印藤は外灯を投槍のように小泉に向けて放った。外灯は黄昏時の空気を勢い良く切り裂いて突き進むが、小泉の目の前で一瞬の内に細切れにされてしまう。


「何だありゃ?」


 春川は首を傾げシンキングタイムには入るが、答えは出ない。


「ワシは若者と話がしたかっただけなんだが……ううむ。仕方ない」


 小泉が右手を横に振った。ただそれだけで公園の木々や、数本の外灯が悲鳴をあげて崩れる。しかし印藤は怯むことなく、制服の胸ポケットから栄養ドリンクの瓶を取り出し、一気に飲み干した。Frenzy(フレンジー)である。

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