ファンクラブはお断り、丸山田 誠一郎
放課後、春川は印藤と二人で駅前の花屋により、お見舞い用の花を買って渡辺の病室に飾ったところ、『鉢植えは根があるから、"根付く"、即ち、"寝付く"と連想してしまい、入院が長引くイメージがあるので普通は選ばないんですよ。まさか、そんな事も君達は知らなかったんですか? まったく、最近の若者は……』と、意識が戻った渡辺に即説教され、嫌味を聞くハメになった。小一時間ほどで渡辺との"楽しい"おしゃべりから開放され、二人は病院の前の公園を歩いていた。
「マジでお悔やみの花、持って行ってもよかったかもな」
春川はうんざりした顔で、とぼとぼとだらしなく歩いていた。
「まーいーじゃん、おかげで食い物たらふくもらったし」
印藤は春川の隣で、戦利品のリンゴにかぶりつきながら答える。渡辺の病室からお見舞い用のフルーツ盛り合わせを強奪したのだ。しかし小一時間のお説教の引き換えにしては釣り合わないだろう。
「おかげでもう5時だぜ? ダッシュで行かねーとるーちゃん怒らしちゃう」
春川は携帯の電源を入れ、新着メールを確認する。すると27件のメールが届いており、そのいずれも早く来いと催促する瑠奈からのものだった。留守録の方にも何件か新しいものがあったが内容は確認するまでも無い。
「るなるな怒ったら怖いからなあ、さっさと行ったほうがいいぜ、けど」
印藤は食べ終えたリンゴの残りをゴミ箱に投げ捨て、鋭い目つきで周囲を見渡した。
「お客さんだぜ?」
二人の携帯から一斉に電子音が鳴り響き、招かれざる客の来訪を告げる。木の影から1人、トイレから1人、外灯の上に1人、噴水の中から1人。4人の若い男が春川達を取り囲んでいた。
「見ねーツラだな。オレのファンクラブに入会したいのなら、NGだ。ヤローはお断りなんでね」
すると木の影に隠れていた男が地面に膝を付き、そのままうつぶせになって倒れた。ファンクラブ入会を断られたショックのあまり……というわけではなく、印藤が問答無用で背中を蹴り、その上にゴミ箱を逆さまにして押し付けたからだ。
「何だ、よえーな? ってEランクかよ……ウゼーウゼー。つか、逃げていいよ。ラストダンジョン適性レベルの勇者がスライムぷちぷち潰したら、虚しいっしょ? あれと一緒。はい、お疲れさん」
トイレの前の男は印藤の言葉で頭に血が昇り、わめき散らした。
「なめてんのか、てめえ!?」
印藤は鋭い視線でこう返した。
「ああ、なめてんだよ」
トイレ男は印藤の視線ですくみあがり、そのまま後退してトイレの中に逃げ込んだ。
「かっこわる」
「そりゃ、インコちゃんに見つめられたら、どんな男もイチコロよ。それだけでホラー映画が50本はつくれる――」
春川はすぐに印藤の視線に気付き、冷や汗を流しそのまま後退してトイレの中に逃げ込んだ。
「俺、あれのファンだったんだよあ……だっさ」
『春川 優人ファンクラブ初代会長 印藤 加奈子』という肩書きは印藤に取って黒歴史であり、消し去りたい過去の遺物であった。といっても、その頃の印藤もメガネをかけた純真潔白の文学少女であり、何をどう間違って今の様になったのかは定かではない。