夜のスナイパー、丸山田 誠一郎
「あ、あんた何者なんだ!?」
「私? 元人間。現在バケモノ。ヴァンパイアハンターだ」
「ヴァンパイアハンター?」
アニメの見すぎなのだろうか?
ちゅうに病と言う単語をふと思い出した。
「そ、ヴァンパイアハンター。かっこいいだろ?」
冗談のつもりなのだろうか? だが、少女の真剣な顔を見れば、それが冗談でない事は一目瞭然であった。
「あ、ごめ。そういやもう一個道があったっけ。あんまこれはおススメじゃないんだけど、ヴァンパイアハンターになるっていう道もあるんだわ、けっこう儲かるよ?」
――儲かる。その言葉に誠一郎は心を動かされた。こんな小さな少女にもできるのだ……ならば自分にだって……。
正直、この不況で何の資格もなく、パソコンも使えない50代の自分が、再就職できる自信なんてなかった。愛する家族を守るためなら、何でもいい。わらにもすがる思いで誠一郎は叫ぶ。
「どうやったらなれるんだ? 私もヴァンパイアハンターになりたい!」
52歳の男が夜の公園で少女に馬乗りにされ、さわやかでない汗を垂らしながらこのセリフを吐いたのだった。
「ふうん。ま、いいか。んじゃあ、テストだ。あれ、片付けてきな。コレ使っていいから」
立ち上がると、先ほどポイっと投げ捨てた男がこちらに向かってくるではないか。
拳銃を一丁誠一郎に押し付け、少女は鉄棒にまたがり事の成り行きを見守る。
「あの程度倒せないようなら、あきらめな。そいつとまとめてヤってやるから」
と言って、クルっと鉄棒で一回転して見せた。
誠一郎は静かに目を閉じた。ずしりと重たい鉄の塊が手のひらに収まっている。こんな物、一度も使ったことがない。だが、ひょんな事から巡ってきたチャンスだ、この手につかんでみせる。
誠一郎は目を見開き……引き金を引いた。反動で巨体が反り返り、不細工に尻餅をつく。
――何かが弾ける音が聞こえた。
発射された弾が命中したのだ。
「おっさん、あんたいいウデしてんよ」
少女は鉄棒の上に立ってほとほと感心したようだった。
「何で私にタマが飛んでくるんだよ、私を殺す気か?」