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50代から始める基礎戦闘術  作者: 岡村 としあき
第三章 『その男、空腹につき』
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ゲームは1日1時間まで、丸山田 誠一郎

 印藤のぼやきが終わるか終わらないかの一瞬に、エリーは左右の手で蚊を両手で潰す様に印藤を襲う。


「ちょこまかとうるさい蚊ね。蚊取り線香でも持ってこればよかったかしら」


 と、エリーは上空に回避した印藤に向けて言った。


「ちくちくやってるだけじゃラチあかねーな。その分、倒したときの経験値とドロップが期待できそーだけど」


 巨大化した右手と左手で地面を殴りつけエリーが跳躍し、印藤の眼前に迫る。


「よくも私に何度も屈辱を与えてくれたわね、お前は特別に挽き肉にして、ハンバーグを作ってパンズに挟んでやるわ」


「できれば、チーズも挟んでくれね? 俺、チーズバーガー派だから」


 印藤は舌なめずりをして、余裕しゃくしゃくに笑ってみせた。印藤がエリーの怒りを引き出すと、彼女をミンチにするが為に、エリーの右手が印藤に迫る。しかし、空中なので体を自由に動かして避けることはできない。


 そこで印藤は左から迫るエリーの右手を、サマーソルトキックの要領で蹴り付け、難を逃れた。着地した瞬間、印藤の圧縮していた時間が元に戻る。


 ――Frenzyの効果が切れたのだ。


「やべっ。Frenzy切れた……ゲロやばいな、こいつは……Zealot(ジーロット)で手早くぶっ殺した方がよかったか?」


 印藤 加奈子には『加奈子ちゃんルール』というものがある。


 『ゲームは1日8時間まで。大好きな9つ年上の兄に金をたかるのは一月5万まで。強化薬(バフ)を使うのは1日1回まで』という内容だ。このルールに従うのであれば、もう強化薬は使えない。


 よしんば、Frenzyに続きZealotまで使ってしまえば、印藤の肉体は崩壊する可能性がある。


 ちなみに、フレンジーとジーロットというのは、印藤が絶賛廃人プレイ中のネトゲに実在する強化スキルの名称である。


 足元に黒い影ができて、印藤は右に飛びのいた。あいかわらず地面にボコボコと穴を開けて地球環境によろしくない。


 そういえば以前、中学時代に付き合っていた彼氏が『地球と女の子に優しく、ヴァンパイアには厳しい奴』だったな、と印藤はふと思い出す。


 『オレはギネスに乗るんだ!』と言って9マタを掛けていたらしいのだが、それが原因で別れたワケではない。 


「どうしたの、えらくノロマになっちゃって……お姉さん悲しいわ」


 エリーの安い挑発的な言葉に、甘い日々の思い出から戦闘へと思考をシフトし直す。


「本当に悲しいなら、さっさとくたばってくんね?」


 あいかわらず口の減らない印藤に、エリーはまたキレた。


「あの巨大なハンマーみてーな左右の拳が直撃すれば、HPは0になるだろうなー。近くの村に運ばれて所持金半分になって助かるなら、いいんだけど」


 しかしエリーはすぐに攻撃に移らず、印藤に背を向けた。


「あん? トイレか?」


 エリーは印藤の言葉を無視し、4メートル程の大木を引き抜き装備した。


「逃げるっていうコマンドあったら、俺迷わずそれ選択するわ」

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