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50代から始める基礎戦闘術  作者: 岡村 としあき
第三章 『その男、空腹につき』
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誰か忘れてませんか、丸山田 誠一郎

 その頃、同じ時間、違う場所で渡辺 義久も戦いを繰り広げていた。


 VHナビに従い現場にやってきた渡辺を出迎えたのは、大量のEランクヴァンパイアの群れだった。


 夜の廃材置き場に似つかわしくない、スーツ姿の男と紅い瞳の少年達。一見すると、不良グループにからまれた運の悪いあわれなおっさんと錯覚するが、鋭く研ぎ澄まされた瞳と、口元の薄笑いは『搾取する側』の証とも言える。


 その薄笑いが気に入らなかったのか、少年ヴァンパイアの一人が罵声を浴びせた。


「おいおい、こんなおっさん寄越すなんて、ヴァンパイアハンターも人手不足かあ? 加齢臭がして臭くてたまらねーぜ」


 すると、ぎゃはははと下品な笑いの大合唱が始まった。


 10代後半の少年達がEランクと言う事は、それでも20代半ばの精神年齢であろうか。


 渡辺が嫌いなものは、この世に二つある。


 一つは、甘い物……そしてもう一つは――。


(しつけ)のなってない子供は嫌いなんですよねえ、僕は」


 両腕にはめた銀色のグローブを握りしめ、渡辺は構えをとった。その気迫は、ヴァンパイアの少年達を一歩後ずさりさせ、思わず防御の姿勢へと転換させる。


「なめてんじゃねえぞ、ジジイ!」


 ヴァンパイアの一人が、飛び出した。


 華麗。という言葉を形容するならば、今の渡辺の動きがまさにそうなのだろう。相手の動きを見極め、その一手先を読み、的確な打撃を急所に叩き込む――。


 渡辺の華麗蹴(かれいしゅう)をみぞおちにもらい、廃材の山に体ごと突っ込んだまま、ヴァンパイアの少年は動かなくなった。


 渡辺は体術士(グラップラー)としての訓練は毎日かかせていない。検定こそ今は4級であるが、彼の実力は2級クラスであった。


 検定を受けない理由はたった一つ。


「僕は会社勤めで忙しい身なんです、手早く皆仲良く一緒に遊んであげますよ?」


 ヴァンパイアといえど、元は人間の若者。彼らの様な荒々しい若者の扱いには慣れている。


 次々に襲い掛かるヴァンパイアの少年達にそれぞれ、心ばかりの挨拶をボディランゲージで返していく。


 二十数回目の挨拶が終わる頃には、すでにカタはついていた。


「やるわね、オジサマ」


 VHナビにDランクの反応があり、目の前の人物が当初の目標であった事を再確認する。


 廃材の山の上から降り立つと、白く無造作に伸びた長い髪を鬱陶(うっとう)しそうに振り払い、薄い目が渡辺を捉えた。


「あたしは小泉家当主の右腕、小泉(こいずみ) 大吾郎(だいごろう)っていうの、ヨロシクねダンディーなオジサマ」


 うふっ、と大吾郎のウインクに渡辺は目を背けた。


 革ジャンから見え隠れしている胸毛といい、そっち系のようだ。


「あらあら、照れちゃってカワイイ~。あたしの胸の奥で眠らせてあ・げ・る。んふっ」


 目を合わせたくない。


 大吾郎は革ジャンを脱ぎ捨て、体を黒く変異させると、口からは汚らしくもよだれを垂らした。


 だが、渡辺はそれに臆することなく構えなおす。


「やれやれ、困りましたねえ」


 渡辺が好きなものは、この世に二つある。


 一つは、辛い物……そしてもう一つは――。


「弱いものいじめが大好きなんですよねえ、僕は」

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