目にはアントシアニン、丸山田 誠一郎
藤内は闇に紛れると、闇から闇へと身を移し、次第にエリーとの距離を詰めていった。
誠一郎は藤内の姿を目で追う事は敵わず、藤内が闇の中、風を切って進んでいるのだと言うことくらいしか認識できない。
エリーは依然ずぶ濡れのままで、肩で息をしながら、闇から迫る銀の牙を警戒し続けていた。
聖水爆弾の効果は絶大らしい。
「初めて使ったんだけど、ちゃんと効果でてるみてーね。よかったわ」
と、印藤は懐から携帯を取り出しブラウザゲームを始めた。戦いそのものにはまったく興味が無いらしい。
「えーと、加奈子ちゃん? 藤内さん戦ってるけど、放っておいていいの?」
またギロリと鋭い視線を向けられて、誠一郎はチビりかけた。いや、半分チビったのかもしれない。
「ウゼーウゼー、俺は今ゲームしてるの、見て分かれよ。目ん玉くりぬいて豚のエサにすんぞ? あ?」
最近の女子高生は怖い、と誠一郎はお腹の脂肪をブルブル震わせ怯えた。
大人しく黙っていればかわいらしいのに、まったくもったいない。
ふと、藤内の方に目を戻すと、銀色の光が一瞬光ったのが見えた。
エリーはそれを右手で防御したようだが、剣を弾くほどの硬い皮膚を有しているのだろうか?
そんな事を考えているうちに、銀色の光が1度、2度、3度とエリーの体の回りで煌いた。それに合わせて、エリーのワンピースもところどころに、切れ目が入り、細かい切り傷が大量にできている。
あまりの高速に誠一郎は目を回してしまい、『帰ったらブルーベリーを大量に食べて、アントシアニンを摂取しよう』、と心に決めたのだった。
「こそこそセコイ女ね、さっさと私を殺して御覧なさいよ?」
エリーは傷つきながらも、未だ余裕の表情であった。
「彩華まだあ? たいくつで死にそーなんすけど? ババア幼女もそう言ってんだし、さっさとやっちゃえば?」
携帯を高速で操作しながら印藤は、藤内に向けて不満を漏らした。
なら手伝ってやれよと思うが、これ以上睨まれたくないので、誠一郎は口を貝の様に閉じた。
「誰が、ババア幼女だ!?」
エリーがブチ切れて印藤に注意がそれた瞬間を、藤内は見逃さなかった。藤内の冷たい視線と銀色の牙がエリーを薙いだ。
「ぁ……あ……」
真一文字にピンクのワンピースが裂かれ、エリーは崩れ落ちる。まるで、西洋人形の様にエリーは倒れたまま動かない。これで、勝負は付いたのだろうか?