廃人なんかに負けるな、丸山田 誠一郎
昆虫の触覚の様な左右に伸びた長い髪と、瑠奈や春川と同じ、近所の県立高校の制服に身を包んだ少女が、留子や渡辺が言っていた印藤のようだ。
白い半袖のブラウスは、だらしなくスカートの上にはみ出ており、ボタンも上から3つほど外していて、胸元がちらほら見え隠れしている。スカートにしても、丈は30CMくらいで、非常に嬉しい状態だった。
瑠奈と同じ高校1年生というが、もしかしたら、瑠奈の友達なのかもしれない。
ギロリと鋭い視線を向けられて、誠一郎はチビりかけた。切れ長の瞳はその視線だけで、生物に何らかの精神的ダメージを与えることが出来るだろう。
実際、印藤に睨まれた誠一郎は、蛇に睨まれた蛙ならぬ、蛇に睨まれた豚だった。食物連鎖を無視して、豚すらも丸呑みしかねない。
「やっべえ、このおっさんの腹、マジ蹴り甲斐ありすぎ! サンドバッグみてえ、後でもう一回蹴らせろよな」
それにしても、この口の悪さはどうだろうか。せめて、『サンドバッグみたいに蹴り甲斐のあるお腹ですね、後でもう一度蹴らせもらってもいいですか? キャハ』くらいは言えないのだろうか?
蹴られるのは一向に構わないのだが、と誠一郎は若者の年長者に対する扱いに鼻息を荒くした。
「うるさいガキね、そのおもちゃは私の物よ、横取りするっていうのなら、その長い髪の毛全部引っこ抜いて、ホウキにしてプレゼントしてあげるわ。まあ、ジャパニーズDOGEZAで許してやってもいいけど?」
エリーは印藤を見上げ、紅い瞳で睨みつけた。
「わは! この幼女Bランクなのかよ~。てことは、見た目+40歳だから50くらいのババア? マジ引くわあ」
VHナビを見た印藤が驚きの声を上げるが、その言葉に反応したエリーの額に、血管が浮いて出てきたのが、遠目からでも誠一郎には解った。
「このガキ……乳臭い分際で……」
印藤はウサギのストラップの付いた学生カバンから、ボールの様な物を取り出し、エリーの足元に放り投げた。
――瞬間、エリーの足元でボールが弾け、中から液体状の物がエリーの全身を濡らした。
「学士ってネトゲでいうと、バッファーとデバッファーを兼ねてんだよね。それの中身、聖水の濃度を倍にしたヤツなんだけど、聖水爆弾てとこ?」
聖水爆弾をまともに浴び、エリーは少し弱ったように見える。
「彩華ぁ~予備の剣一応持ってるから、貸したげる」
印藤は藤内に向けて剣を放り投げると、藤内はそれを受け取り、銀の刃を引き抜いた。
「今日、ネトゲのイベント初日なんだよね、さっさと終わらせちゃってくれる? 廃人ニート共に先こされたら、ヤダし」
「もちろんです」
と、藤内は笑顔で答え、『レア武器一個が交換条件ですけどね』と、付け加えた。