やればできる子、丸山田 誠一郎
留子はあきれ返っていた。誠一郎に射撃の訓練を課したのだが、練習用の的全ての中心部に穴がぽっかりと空き、全弾が命中していた。
「なんだこりゃ」
それが留子の素直な感想だった。
的を狙わせて留子に弾が来るなら、逆の発想で『私を狙ってみろ』と言って留子を狙わせたら、誠一郎は正確な射撃を披露してみせた。そして今、ビッグデスバーガーの写真を貼り付けたカカシを、誠一郎のステークが貫いた所だった。まさしく神速の突きである。
「春川の言うとおり、本当に顔とそれ以外も冗談なのか、あいつは……」
だが、これで誠一郎の操縦方法はわかった。うまくすれば、遠近両方こなせるヴァンパイアハンターになるかもしれない。かなり特殊な扱いをしなければならないが……。
「今日はここまで、だな」
午後5時のチャイムが鳴り、二日目の研修が終了した。
「よ、トメちゃん。本日もご機嫌麗しゅう」
春川が颯爽と演習場にあらわれ、一瞬で留子との距離を詰めると、留子の右手の甲にキスをした。
「ぶご!」
――が、キスの瞬間に留子の右手の甲が春川の口を直撃し、春川は盛大に空中を舞い、地面に墜落する。
「お前は地面とキスでもしてろ」
留子は消毒用アルコールで手の甲を拭くと、さっさとドアを開け、私設ゲームセンターに消えた。
「春川くん、大丈夫かい?」
誠一郎は春川に駆け寄り、手を差し伸べた。
「あーマルちゃんじゃん。オレ、てっきりタヌキの置物かと思ってたよ。いるならいるって、言ってよね……あたた」
春川は誠一郎の手を借り、立ち上がると、口元をさすりながら、誠一郎の顔を見て言った。
「今日はこれからどーすんのかな? 今日からブチョーとインコちゃんがこっち来るって聞いてさ。ガッコ終わって速攻飛んで来たのに」
ブチョーというのは、おそらく渡辺の事であろう。インコちゃんというのは、また別のヴァンパイアハンターであろうか?
「オレ、ちょっち聞いてくるわ」
春川はさっき盛大に吹っ飛ばれたのに、元気に飛び起きるとさっさとドアの向こうに消え、ゲームセンターで格ゲープレイ中の留子を見つけると、春川は駆け出した。
「トーメちゃん、今日は何するの? マルちゃんの散歩? それともマルちゃんの調教?」
「んー。ああ、春川か。今日は丸山田は藤内と組ませる事にした。昨日みたいに聖水忘れて、パニクられても困るしな」
留子はゲーム画面でキャラクターを選択し終わると、春川の方に顔を向けた。
「えーじゃあ、オレはどうすんの? 腕立て1万回? でも、トメちゃんの上でやっていいなら100万回やっちゃうけどね!」
てへ、と舌を出した春川に留子は気にもせず、話を続ける。
「お前、杭打ち検定1級取る気は無いか?」