男なら吼えろ、丸山田 誠一郎
「あひゃあああん」
少女の冷たい声に、誠一郎は情けない声を出した。
砂を踏みしめる音がゆっくりと近づいてくる。やがて白くて細い足が目の前に現れ、誠一郎は覚悟した。
若くてカワイイ女の子に蹴られるなら、いいか。
違う覚悟を決めた誠一郎だったが、願いが叶う事はなかった。先ほどの男達が起き上がり、再び少女に迫ろうとしていたのだ。
頼りない公園の照明で男達の顔が照らされる。だが、いずれも顔に生気がなく、死んだ魚の様な目をしている。彼らは舌を出し、よだれを垂らしながら少女に一歩一歩近づいていく。何かの薬物でもヤっているのか、とても正気とは思えない行動だった。
このままでは本当に少女が危ない。
「食べるなら私の方がうまいぞ!」
勇気を振り絞って、意味不明な挑発を力の限り叫んだ。振り絞るなら脂肪も一緒に振り絞りたいところだが。
挑発が効いたのだろうか、四人の男達は皆一斉にこちらに向かってくる。
「あ、やっぱり食べるならもうちょっと待ってくれないかなー。まだ旬の時期じゃないんで……」
春先はおせちや鍋やお雑煮などで、一番肥えている時期らしい。今は6月になったばかり、待てというほうが無理だろう。
旬を待ちきれず、男の一人が誠一郎の首筋に噛み付いた。
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ! 私にはカミさんと娘がいるんです。そんな趣味は……」
噛み付いていた男を引き剥がすと、ポイっと放り投げた。
「こいつらもうダメだからさ。話しかけてもムダだよ」
さっきの少女が隣に立っていた。
「え、ダメって?」
「おっさん、今から私がする事、誰にも言うなよ。言ったら殺すから、社会的に」
少女の迫力に押され、何も言葉が出てこなかった。