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50代から始める基礎戦闘術  作者: 岡村 としあき
第三章 『その男、空腹につき』
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趣味は人それぞれ、丸山田 誠一郎

「渡辺部長、ロリコンだろうとなんだろうと、それは個人の趣味だと思います」


「はい?」


 誠一郎はストレートに思いを打ち明けた。


「確かにあの女の子はかわいらしかった……同じ男としてそれは解ります! でもせめて! あと10年は待ってあげてください! その……まだ早いと思うんです」


「丸山田くん、君は相変わらずバカだねえ」


 渡辺は嫌味一杯に微笑むと、誠一郎に詰めより肩をすくませた。


「へ?」


「違うよ、あの女の子、どこかで見たことがあるんだ。それも最近にね」


 渡辺はそっち系の雑誌でも購読していたのだろうか。というか、エリート社員のウラの顔を知った気がして誠一郎は少し引いた。


「ダメだな、思い出せない。いつまでも考えても仕方ないねえ。丸山田くん、引き続き案内頼むよ」


「は、はあ」


 誠一郎達がその場を立ち去った後、老人と少女は無事にイカちゃんにたどり着き、目当ての物を手にいれ公園のベンチで舌鼓をうっていた。


「これがTAKOYAKIなのね、不思議なテイストだわ。やっぱりお父様がお生まれになった国、日本。とってもワンダフルね! あなたもそう思わない、アーノルド?」


 少女はベンチから、車椅子に腰掛けたままの老人に爪楊枝の先をちらつかせ、尋ねた。夏の日差しにも負けない無邪気な笑顔は、年相応の少女といえるが、どこか老人に対して威圧的な様に見える。


「自分もそう思います、お姉さま」


 老人は表情を変えずにそう答える。


「ところでこの格好、どうかしら? 日本の文化MOEを意識してみたんだけど、どう、萌える? 萌えるなら萌えて良いわよ。萌えないならあんたの顔面が燃えるけど」


 ふんだんにフリルが使われているピンク色のワンピースに身を包み、少女はベンチの上でワンポーズとって見せる。 その趣味をお持ちの大きなお友達が目撃したら、まさしくシャッターチャンスであろう。


「萌えます、お姉さま」


 老人は無表情のまま虚空を見つめ、壊れたロボットのように、口から音を発した。


 少女はその反応がすでに予測済みだったのか、すぐにベンチに座りなおし、またたこ焼きに手を出した。


「……もういいわ。それより、お父様の生まれた土地。お父様の吸っていた空気。あぁ……まるでお父様と一体になった気分。お父様を全身に感じるわ、あなたもそう思わない、アーノルド?」


 少女はベンチに腰掛けたまま両手を広げ、恍惚の笑みを浮かべる……が、それとは対照的に、老人は相変わらず車椅子に座ったまま、虚空を見つめ、無表情であった。


「自分もそう思います、お姉さま」


 また同じ様に、そう答えた。


「あいっかわらず、つまらないヤツね、お前。弟でもなければ、血を全部抜いちゃうとこだわよ? 自然を装うために、おじいちゃんと孫娘やってるけど全然楽しく無いわ。……まあ、いいわ。これもいつもの事だし。それより、ミツヒコの家この辺りなんでしょう。突然おしかけたりしたら、驚くかしら?」


 少女は爪楊枝を口にくわえ、行儀悪く足をブラブラとバタつかせているが、老人はそれを咎めようとはしない。なぜならば二人の関係は姉と弟だからだ。


「事前に連絡は入れておきました。もうすぐこちらに来るかと……」


 二人が話している間に、公園の前に一台の車が停まり、中からスーツをビッチリと着込んだ、20代半ばのスポーツマンタイプの男が出てきた。


 ――吉村である。


「ミツヒコだわ!」


 少女は吉村に気付くと駆け寄り、吉村の胸に飛び込んだ。


 老人も車椅子を車の方へ走らせる。


「お久しぶりね! ミツヒコ! ちゃんと(ごはん)は摂ってる? あなたまだ子供なんだから、もっと大きくならないとね」


「エリーお姉さま、それにアーノルドお兄さま。お久しぶりです……10年振りですかね?」


 エリーは吉村から離れると、後ろでに腕を組み、嬉しそうに公園の時計の下までスキップして、吉村に振り向いた。


「ごめんね、ミツヒコ。急に押しかけちゃって……あなたの顔を見に来たというのも、理由の一つなんだけど、お父様にお願いされちゃったの」


「理由はだいたい察しがつきますが……『小泉』の件ですね?」


「ミツヒコは偉いのね。バカで無口なアーノルドとは大違い。あなたは、私の自慢の弟よ」


 エリーはジロっとアーノルドに目を向けたが、すぐに吉村に視線を戻す。


「勢力の統一……それなくして私達の存続はありえないわ」


 口の爪楊枝を右手でつまみ、それを後ろの時計に向かってエリーは放った。時計に爪楊枝が命中し、ガラスを突き破り、針の中心を深く射抜く。


「私達『T』に逆らう他のヴァンパイア勢力を完全に叩き潰しちゃいましょう」


 エリーは紅く染まった瞳のまま、吉村に微笑んだ。

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