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50代から始める基礎戦闘術  作者: 岡村 としあき
第三章 『その男、空腹につき』
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俺の胃袋は宇宙だ、丸山田 誠一郎

 デスバーガー三合店の前で、留子は息を呑んだ。嫌な汗が留子の髪を濡らし、汗でじわりと背中にブラウスが張り付く。


 アルバイトの女子大生達が、こちらへ向けている視線が冷たい。


 店内では、店長と目される男性が一心不乱に頭を下げまくっており、客はブツブツと文句を言いながら帰っていった。


 そして、お昼時であるというのに『本日の営業は終了しました』というプレートがドアにかけられている。


「どうしたんですか師匠? それにしても、チーズデスバーガーもチキンデスバーガーもどれも絶品でしたね!」


 フライドポテトの袋をゴミ箱に捨てた誠一郎が、満足げな表情で、誠一郎の腹部と対照的に、やせ細った財布を呆然と見つめる留子に語りかけた。


 空気と私の懐事情を読め、このボケ! と留子は心の奥底でキレた。公衆の面前で汚い言葉を使いたくは無いので、ギロっと誠一郎を睨みつける。


「あ、すみません……師匠の事も考えずに……」


 解っていればまだいいのだ、留子は少し心を落ち着かせた。


「プリンパイ、23個残ってたんですけど、全部食べちゃいました」


 天使の様に誠一郎は幸せそうな笑みを浮べたが、留子は悪魔の様な笑みを誠一郎に返した。


 留子は滅多に見せない気弱な表情で、デスバーガー三合店を誠一郎と供に立ち去り、駅前のバス停のベンチに前のめりになって倒れこんだ。


 店の全食料を喰らい尽くした誠一郎……やはりこいつに向いてるのは大食い王(フードファイター)だろう。


 ブラウスの胸ポケットに強引にねじこんだ領収書を取り出し、仰向けになってそれを両手で天に掲げる。そこには、ファーストフードでランチした金額とは、とても思えないような額が記載されていた。中古の原付が一台買えるのではないか?


 株主優待券を使ったにもかかわらず、誠一郎の飼育費がこれだけの金額になるとは夢にも思わなかった。領収書の中身を適当に備品代とかにして、なんとか経費で落としてしまおう。後で藤内に何か言われるかもしないが……。


「あれ、師匠の携帯。鳴ってますよ?」


 ショックすぎて気が付かなかったが、留子の携帯は着信中であった。


「ああ、私だ。ん? 道に迷った? そうか、わかった。人を寄越すからそこで待ってろ。場所は……たこ焼き屋イカちゃんの前か、わかった」


 たこ焼きという単語に誠一郎の胃袋が反応する。


「新しいヴァンパイアハンターが、今日うちに来ることになってたんだが、どうも道に迷ってしまったらしい。イカちゃんの前で待ってるらしいから、お前行ってきてくれないか?」


「喜んで!」


 誠一郎は、新しい仲間ではなく、たこ焼きを胃袋に迎えるため走り出した。


 何で今の突進力を、ステークの実技の時に活かせないのか、と留子はすでに小さくなった誠一郎の背中を視界の端に捉え、大きくため息をつく。


 イカちゃんは大玉のたこ焼きで、少々値が張るがふんわりした生地と、コクのあるオリジナルソースと、鮮度抜群のタコを使っているので、誠一郎の中では100点中89点の高評価だった。


「マスター、いつもの頼むよ!」


「おう、セイちゃんやないか! 昼飯時やのにたこ焼き? オタクも好きやね」


 いつものやりとりの末、イカちゃん特製たこ焼きを受け取り、早速誠一郎は至福のときを迎える――はずだった。


「うん、これは……まぁまぁだね。僕の口には合わないけど」


 爪楊枝の先には、すでに愛しいたこ焼きはおらず、高級そうなスーツを着込んだ男が口をもぐもぐと動かしている。


「丸山田くん、君は相変わらずだねえ」


 たこ焼きを盗んだ犯人は誠一郎も良く知る人物であった。


「渡辺部長……」


 誠一郎をリストラした元上司であり、同期の渡辺(わたなべ) 義久(よしひさ)


「また同じ職場になるだなんて、今度も僕にリストラさせないように、頑張ってくれたまえよ?」

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