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50代から始める基礎戦闘術  作者: 岡村 としあき
第二章 『渡る世間はヴァンパイアばかり』
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22時のハプニング、丸山田 誠一郎

 突然、ノックもせずに勢いよくドアを開け、春川が医務室に侵入してきた。何故か、匍匐前進(ほふくぜんしん)で誠一郎のベッドまで這いずりまわり、周囲を探索している。


「マルちゃんマルちゃん! このへんにオレの携帯落ちてなかった?」


 ベッドの下に潜り込んだのか、春川の声が誠一郎の真下から聞こえてくる。


「ああ、うん。ここにあるんだけど……」


 ベッドを突き破った春川の手が、携帯を握り締めていた誠一郎の手をがっしりと掴む。


「みつけたあああああ!」


「痛い、痛いよ春川くん!」


 誠一郎の手から携帯をもぎ取ると、ベッドの下で愛娘瑠奈と同姓同名の、声までそっくりさんに電話をかけた。


「やっほー! るーちゃん、ご無沙汰! 23分34秒ぶりだね! え? オレが浮気? んなわけないっしょ! きっと幻聴だよ、空耳だよ。そんなの気にしちゃだーめ!」


 どうにも居辛い空気だったので、上着を着込み、部屋の外へ出た。


「おう、丸山田。もう大丈夫なのか?」


 ドアを開けてすぐ留子が話しかけてきた。


「はあ、思ったより傷は大した事無いみたいで、もう帰っても大丈夫そうです」


「そうか、それじゃそろそろ帰るか。私も一応塾に行ってる事にしているんだが、そろそろ帰らないとまずい時間だろ?」


 時計を見れば、午後十時をまわっている。


「でも師匠。その……その格好で帰るのはまずいんじゃ……」


 吉村に裂かれたスカートはそのままだったので、今一緒に並んで帰ったら警官に職務質問され、誠一郎は社会的に死ぬだろう。


「国家権力なんざ怖がってどうするんだ。やばくなったら股間を蹴り上げて逃げればいいんだよ」


 それでは余計に罪を重ねることになる。というか、誠一郎では足のリーチが短すぎて届かないのだが。


「田中さん、そうではなくて年頃の女の子的に、それはマズイんじゃないかとマルちゃんは心配してるんです」


 藤内がフジタニの女子制服を抱え、階段を降りてきたところだった。


「まあ、お前が言うこともわかるが……なんでウチの制服なんだよ、他に無いのか?」


「後は春川くんが作った魔法少女の衣装と、スクール水着くらいしか……」


「なら、それでいいよ」


 留子は渋々、フジタニの女子制服を受け取ると、その場で着替え始めた。


「ブーッ!」


 突然のハプニングに誠一郎は微量の嬉しさと、気まずさがブレンドされた感情を口から吐き出した。決して先祖返りしたわけではない。


 上着のボタンを外し終わった留子が訝しげに尋ねた。


「なんだ、ブタごっこならよそでやれ」


「いや、師匠ここで着替えなくても……」


「嫌だ、めんどくさい。お前がどっかいけ」


 子供の様なやりとりの末、結局誠一郎は外で待つ事にしたのだった。

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