飛べない豚はなんとやら、丸山田 誠一郎
公園にたどり着いた誠一郎は、のそのそとうつむき加減でブランコを目指した。
やがて目的地に辿りつくと、ゆっくりとブランコに腰を下ろす。するとブランコが悲鳴にも似た音をたて、『乗るな』と猛抗議してくる。
それに構わず誠一郎はブランコをこぎだした。ブランコに揺られ星空を見上げる。
突然、世界の終わりの様な地響きが起こり、全身に衝撃が走った。
「壊しちゃったよ……あはは」
誠一郎の体重に耐え切れず、ブランコの鎖がはじけたのだった。センチな気分になる事も適わないらしい。しかたがなく、水でも飲もうと重い腰を上げた時だった。
砂場近くで、少女が数人の若い男に囲まれているのが目に入った。
ショートカットの黒髪に、白いTシャツとデニムのショートパンツ姿のかわいらしい女の子が、4人の男に脅されているようだ。
整った顔立ちで、その大きな瞳には吸い寄せられる様な魅力があった。かなりの美少女……といっても、娘の瑠奈には敵わないが。年は10代前半……中学生くらいだろうか?
誠一郎は意を決すると、即座に回れ右をして、公園から脱出しようとする。自分の娘より幼い少女を見殺しにするのは後ろ髪を引かれるが、タコ殴りにされたくない。警察を呼ぼう。
震えた指でケイタイを操作するが、白く細い腕につかまれ激痛が走った。
「お前、最低だな。暴漢に襲われそうになってるか弱い娘を見殺しにするかフツー?」
恐ろしい握力で、か弱い娘が誠一郎の腕を持ち上げた。
それはさっきの少女だった。
少女の小バカにした様な口調と、外見のギャップに少し戸惑うが、悪戯っぽいやんちゃな笑顔は無邪気そのものであった。
少女の後ろに目をやると、先ほどの男達がぐったりと倒れ込んでいる。まさか、彼女がやったのだろうか?
誠一郎は、少女の肉食獣の様な瞳から目を放す事ができず、恐ろしくなって謝罪の言葉を口にした。
「ごごごごごめぬはひゃい」
日本語に訳すと、『ごめんなさい』らしい。
中学生くらいの女の子に体重1?0Kgの自分が片手でやすやすと持ち上げられている光景に、誠一郎は思考が追いつかなかったのだ。
次の瞬間。
誠一郎は空を飛ぶ鳥になっていた。いや、それでは鳥に失礼か。空飛ぶ豚は放物線を描くように砂場へダイブする。
砂まみれの顔はウミガメが産卵する時のそれと同じであった。
「まだ生きていやがったか」