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50代から始める基礎戦闘術  作者: 岡村 としあき
第二章 『渡る世間はヴァンパイアばかり』
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未来の義理の息子?を守れ、丸山田 誠一郎

 爪の直撃を回避したものの、留子のスカートは、見るも無残に引きちぎられ、あられもない格好であった。太腿(ふともも)のあたりまでスカートが裂かれ、白くみずみずしい素肌が露出している。


「なかなかセクシーじゃないですか、ステキですよ留子さん。現代(イマ)風に言うなら『萌え』、ですかね?」


 吉村の凶悪な顔から『萌え』という単語が飛び出て、誠一郎はそのギャップに吹きだしてしまった。


「このロリコン野郎……丸山田、お前もヘンな目で見てるんじゃない! さっさと春川を叩き起こして援護させろ!」


「オレならもう起きてるぜ」


 いつの間にかステークを拾ってきた春川が隣に立っていた。


「あんなセクシーショット目の前にして、寝てるわけにはいかないっしょ? てか、ヴァンパイアにしちゃファインプレーだよな。貫くのを少し、ためらっちゃいそうだぜ」


 春川が戦線復帰したとはいえ、留子の手持ちの武器では火力不足が否めず、決定打にはならないだろう。頼みの綱は春川のステークなのだが、Cランクヴァンパイアを相手に、たった1年足らずの戦闘経験で、うまく立ち回れるとは思えない。


 やはりここは春川を援護しつつ、吉村にスキを作らせるしかない。だが、果たしてうまくいくのだろうか?


 いや、やるしかない。


「バカとバカは使いようか……おい春川!」


「あいよ!」


「こいつを倒したら、後で気持ちイイ事してやる」


 ただし、私じゃなくて誠一郎が、だがな。クク、と心の中で留子は笑った。 


「ちょっとちょっとちょっと! オレ、全力でトバシちゃいますよ!」


 留子は吉村に向き直り、再び引き金を引く。


 春川はそれを合図に、吉村との間合いを一気に詰め、銀色の一閃を放つ。


 さすがに二対一とあって、吉村も回避と防御に専念せざるを得なく、防戦を強いられた。吉村の凶悪な顔に、(わず)かだが焦りが見え始めている。


「参りましたね、先程よりもキレのある鋭い突き……何が彼を変えたのです」


 ずばりいうと、性欲であろうか。


「たまにはマジになっとかねえと、かっこ悪いまんま終わっちまいそうだからな!」


 春川の嵐の様な突きを吉村は紙一重でかわすが、絶妙のタイミングで入る留子の援護射撃が、吉村の足に命中し動きを止めた。そのスキを逃さず春川が大きく踏み込んだ。


「遠慮せずにオレに貫かれて良いんだぜ、ヨッシー?」


「遠慮しますよ、そう何度も食らいたくないのでね」


 吉村の右肩を春川のステークがかすめる。だが、そこに春川の大きな誤算があった。


 大きく踏み込みすぎたせいで、春川と吉村の距離はお互いの吐息がかかりあう程近く、留子が援護しようにも、一歩間違えれば春川に当たってしまう。


 吉村の爪が春川のノーガードだった腹を捉えていた。


 ――このままでは春川が危ない。


 誠一郎の中で今日一日の出来事が走馬灯の様に蘇った。ちくわをくれた春川、公園をハム園と読んでしまう春川、ステークを見事に使いこなす春川、空気を読まず彼女と電話しまくる春川。


 その春川が危ない――。


「うおわああああああああああああ!」


 気が付くと駆け出していた。イノシシの様に、いや、吼え叫ぶ雄々しき獅子の様に。情けない叫び声を上げながら。


「マルちゃん危ねーぞ! やめとけって!」


 春川を突き飛ばし、吉村を睨みつける。留子が何か叫んでいる気がした。お腹がなんだか熱い、胃もたれだろうか?


 だが、そんな事はどうでもいい。誠一郎は意識を集中するとしばし目を閉じ。意を決し見開いた。


 その瞳孔は血に染まったように紅く変色していた。

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