未来の義理の息子?を守れ、丸山田 誠一郎
爪の直撃を回避したものの、留子のスカートは、見るも無残に引きちぎられ、あられもない格好であった。太腿のあたりまでスカートが裂かれ、白くみずみずしい素肌が露出している。
「なかなかセクシーじゃないですか、ステキですよ留子さん。現代風に言うなら『萌え』、ですかね?」
吉村の凶悪な顔から『萌え』という単語が飛び出て、誠一郎はそのギャップに吹きだしてしまった。
「このロリコン野郎……丸山田、お前もヘンな目で見てるんじゃない! さっさと春川を叩き起こして援護させろ!」
「オレならもう起きてるぜ」
いつの間にかステークを拾ってきた春川が隣に立っていた。
「あんなセクシーショット目の前にして、寝てるわけにはいかないっしょ? てか、ヴァンパイアにしちゃファインプレーだよな。貫くのを少し、ためらっちゃいそうだぜ」
春川が戦線復帰したとはいえ、留子の手持ちの武器では火力不足が否めず、決定打にはならないだろう。頼みの綱は春川のステークなのだが、Cランクヴァンパイアを相手に、たった1年足らずの戦闘経験で、うまく立ち回れるとは思えない。
やはりここは春川を援護しつつ、吉村にスキを作らせるしかない。だが、果たしてうまくいくのだろうか?
いや、やるしかない。
「バカとバカは使いようか……おい春川!」
「あいよ!」
「こいつを倒したら、後で気持ちイイ事してやる」
ただし、私じゃなくて誠一郎が、だがな。クク、と心の中で留子は笑った。
「ちょっとちょっとちょっと! オレ、全力でトバシちゃいますよ!」
留子は吉村に向き直り、再び引き金を引く。
春川はそれを合図に、吉村との間合いを一気に詰め、銀色の一閃を放つ。
さすがに二対一とあって、吉村も回避と防御に専念せざるを得なく、防戦を強いられた。吉村の凶悪な顔に、僅かだが焦りが見え始めている。
「参りましたね、先程よりもキレのある鋭い突き……何が彼を変えたのです」
ずばりいうと、性欲であろうか。
「たまにはマジになっとかねえと、かっこ悪いまんま終わっちまいそうだからな!」
春川の嵐の様な突きを吉村は紙一重でかわすが、絶妙のタイミングで入る留子の援護射撃が、吉村の足に命中し動きを止めた。そのスキを逃さず春川が大きく踏み込んだ。
「遠慮せずにオレに貫かれて良いんだぜ、ヨッシー?」
「遠慮しますよ、そう何度も食らいたくないのでね」
吉村の右肩を春川のステークがかすめる。だが、そこに春川の大きな誤算があった。
大きく踏み込みすぎたせいで、春川と吉村の距離はお互いの吐息がかかりあう程近く、留子が援護しようにも、一歩間違えれば春川に当たってしまう。
吉村の爪が春川のノーガードだった腹を捉えていた。
――このままでは春川が危ない。
誠一郎の中で今日一日の出来事が走馬灯の様に蘇った。ちくわをくれた春川、公園をハム園と読んでしまう春川、ステークを見事に使いこなす春川、空気を読まず彼女と電話しまくる春川。
その春川が危ない――。
「うおわああああああああああああ!」
気が付くと駆け出していた。イノシシの様に、いや、吼え叫ぶ雄々しき獅子の様に。情けない叫び声を上げながら。
「マルちゃん危ねーぞ! やめとけって!」
春川を突き飛ばし、吉村を睨みつける。留子が何か叫んでいる気がした。お腹がなんだか熱い、胃もたれだろうか?
だが、そんな事はどうでもいい。誠一郎は意識を集中するとしばし目を閉じ。意を決し見開いた。
その瞳孔は血に染まったように紅く変色していた。