アニメは文化、丸山田 誠一郎
「最近の杭は進化したんですね……なるほど、多くの兄弟や子供達がやられてしまうワケだ。どれ、あなたで試してみましょう、いい音で弾けてくださいよ?」
「いや、オレ、貫くのは好きだけど、貫かれるのは趣味じゃないんで! マルちゃんはそのへん、オールマイティーだからお先に召し上がれ!」
と言って、春川は誠一郎を前に突き出した。
「あなた、あれですね。『トラエモン』に出てくるノブタくんそっくりですよ、その行動パターンとか」
トラエモンは毎週金曜午後7時から、夕日テレビで放映されている国民的アニメだ。
人類滅亡の鍵を握る少年『ノブ ノブタ』を護衛するため、ノブタの子孫が220世紀から現代日本に送り込んだ、愛と平和のトラ型殺戮ロボット。それがトラエモンである。
サングラスを掛け、11次元ポケットから飛び出す、数々の必殺道具を駆使し、イジメっ子のシャイヤンやシズルちゃんからノブタを護衛している。
ちなみに、毎回ノブタが道具の使い道を間違えて、首都圏が壊滅するのだが、次の週には完全に元通りになっており、架空世界とはいえ、その科学力には驚かされる。
「オレも地デジ録画して、12人の姉ちゃんと毎週見てるぜ、シズルちゃんの入浴シーンは名物だよな」
色々と突っ込むところなのだろうが、あえて無視した。
「それだけではありません、日曜18時からはミニまる子ちゃんと、ホタテさんも必見です。私、国民的アニメに目が無いんですよ、フフ」
いつの間にかアニメ談義に花が咲き、緊迫した空気がどこかへ飛んでしまった。
「さて、存分に語り合いましたし、もういいですね?」
やはり、吉村は見逃してはくれないようだ。
「ああ、いいぞ。そのままヤっちゃってくれ」
少女の声がした。
「あなたは……」
吉村はトイレの屋根を険しい顔で見つめていた。
ずっと我慢していたのだろうか?
「吉村さん、我慢は体に毒ですよ。ほら、道開けますから、どうぞ」
「ヴァンパイアは排泄しないと午前中に講義しただろ、丸山田。『楽しく学べるヴァンパイアの生態』を家に帰って読み返しとけ」
頭上を見上げると、近所の中学の制服に身を包み、プリンを買ったときに付いてくる、プラスチックのスプーンを口にくわえた少女――留子がいた。
「田中 留子……わざわざお前が出向くとはな……」
吉村は留子を睨むと、トイレの屋根に向かって大きく跳躍し、留子に向かってステークを振り回した。
留子はギリギリのところでそれをかわすが、一歩一歩追い詰められ、やがて屋根の先端部分に差し掛かる。
だが留子は、嬉しそうに笑っていた。
「かわいかったあのボウヤが、えらく立派になったじゃないか。少しは私を満足させてくれよ?」
「オレなら絶対にトメちゃん満足させる自信あるけどね! 股間満足度100%! なんちゃって~」
春川は『下のステーク』を誇張し、セクシーにくねらせた。
刹那、銃声が鳴り響き、春川は股間を押さえてうずくまった。
もちろん、撃ったのは留子だ。
なかなか起き上がらないところを見ると、今度は急所に当たったのかもしれない。
「田中 留子と愉快な仲間達は相変わらずですか……彩華も元気でやっていますかね?」
「元気さ、いつでもお前を消せるように剣の腕を磨いてる。藤内の奴、せめて自分の手で元旦那を楽にしてやりたいんだとさ」