ステークよりステーキ、丸山田 誠一郎
「聖水とお茶、間違えちゃったみたい……ごめんよ、春川くん」
申し訳なさそうに謝る誠一郎に、吉村はこらえきれず笑い出した。
「ははは! 丸山田さん、やはりあなたは面白い人だ」
「マルちゃん、冗談は顔とそれ以外だけにしてよね……」
要するにそれは、誠一郎の存在そのものが冗談という事だろう。
「どどどどど、どうしよう?」
「仕方ねえな……やるか!」
春川は急に真剣な面持ちになり、ヴァンパイアに向かって走り出した。姿勢を低くし、アッパーを繰り出す――かと思いきや、そのままの体勢でヴァンパイアの隙間を縫って猛ダッシュし、逃げた。
「早いよ春川くん、待ってくれ!」
誠一郎もそれに続くため、目の前のヴァンパイア達を轢き逃げして後を追う。
二人はトイレの脇にある茂みに身を隠し、なんとか逃げることが出来た。
「まずいぞこりゃ……聖水無いといくら倒してもキリが無い」
「春川くん、持ってきていないのかい?」
「ステーク担いだら、それ以外ダルくて何も持てないのよ」
春川は当然だろ、と言わんばかりの顔をしている。
「そうだ! なんとか聖水をここで調達できないかな? 君、杭打ち準一級なんだろ! なら、他のだって」
「あーだめだめ。オレ、他のに一切興味なかったから勉強してないの。杭打ち以外全部5級なんだわ、それに聖水の作りかたとか忘れちった」
てへ、と舌を出した春川の顔面に、野良犬のフンを枝に突き刺し、そのまま放り投げてやろうかと思ったが、脳内シミュレーションのみにとどめておいた。というか、原因は誠一郎にあるのだが。
「まあ、安心しろよ。Cとは一度やりあった経験があるんだ。その経験があればなんとかなるって!」
「本当かい!?」
「Cっていっても、Cカップの女の子だけどね!」
てへ、と舌を出した春川の顔面に、野良犬のフンを枝に突き刺し、そのまま放り投げてやった。
「危ねっ! このビューティフルストロングな顔面にそんなもん投げるなよ!」
惜しい。すんでのところでかわされ、ビューティフルストロングな顔面は無事だった。
「ま、聖水無くたって、とりあえずオレが奴らを戦闘不能にしてる間に、届けてもらうなり、マルちゃんが取りに行くなりすればいいさ、ってことでステーク返して」
差し出された右手は何を求めているのだろう。誠一郎はとりあえず、春川から貰ったちくわを、右手に一本乗せてみた。
「マルちゃん、ノリ突っ込みしてあげたいのヤマヤマなんだけどね……。オレのステーク、どこやったの! 食べたの!? おいしかったの!?」
春川は語気を荒げ、誠一郎に詰め寄った。
そもそも、食べておいしいのなら誠一郎がとっくに食べている。
「お探し物は、これですか?」
声のした方向に目をやると、吉村がステークを携え公園の明かりの下に立っていた。