ピンチを超ピンチに変える男、丸山田 誠一郎
ナビの誤表示……おそらく春川のナビは最新ではなかったのだろう。最新バージョンにアップデートされた事で、吉村の能力が正常に表示されたのだ。
Cランク……そう、30年以上のキャリアを持つヴァンパイア。
「やっぱあの展開は無いっしょ! 最近のドラマにありがちなパターンだよね。るーちゃんはどんなドラマみてるの?」
春川はまたもや彼女と電話している様だ。
吉村は通話中の春川の背中に近づき、肩を掴む。
春川は振り向かず、うっとうしそうにその手を払いのけた。
「マルちゃん、今通話中! もう二度とちくわあげませんよ! あーごめんごめん。え? 女じゃないよー、後ろにいるのは太っててマヌケなおっさん。信じてよーそこでブヒブヒ言ってるんだから。え、家のお父さんに似てる? ご冗談を! るーちゃんのお父さんならきっと苦みばしったイイ男でしょ、そこの肥満戦士ピッグマンと一緒にしたら、お父さん草葉の陰で泣いちゃうよ?」
本人を目の前にしてえらい言い様だった。というか、誠一郎はまだ死んでいない。
吉村はいい加減頭にきたのか、春川の背中を蹴り飛ばした。
春川はうつぶせになって倒れるが、逞しくも携帯は離さず未だ通話中だった。
「痛ってええええええ! ちょ、若くてカワイイ女の子に蹴られるならともかく! あ、いや、るーちゃん、だから女じゃないって! ヘンなプレイとかしてないから信じてよ! ……切れちゃった。んもう、バカマルコちゃん! るーちゃん怒って切っちゃったじゃないか! どーしてくれるん――」
振り向いた春川に吉村の拳が振り落ろされた。
「まったく最近の若者は……ヴァンパイアといえど私は年長者ですよ? 人を無視して延々ラブコールとは……日本の未来は暗いですね、ヴァンパイアの気にする事ではありませんが」
「親父にも殴られたこと無いのに……! 暴力反対!」
人の腹に風穴空けといて、今更暴力反対はないだろう。
涙目で吉村を見上げる春川には、さっきのカッコイイ面影は微塵もなかった。
「せっかく稀代の杭打ち士に出会えたと思ったのに。残念でなりませんよ、私が手を下すまでも無い。おいでなさい、かわいい子供達! ……そこのバカを始末しなさい」
気が付けば先程のノーランクヴァンパイア達が、春川達を囲んでいた。
「あれ? なんで? ちゃんと聖水かけたのに……」
誠一郎は聖水のペットボトルを取り出し、蓋を開けて匂いをかいでみた。
まさか……。
中身を口に含み、ごくりと飲み干す。
「おいしい……」
すっきりとした味わいと清涼感が、誠一郎の鼻孔を突き抜けた。