鏡を見ろ、丸山田 誠一郎
「さてさて、残りはそっちのお姉さん達か。どうせ貫くなら、ベッドの上でといきたいもんだよね、キャハハ」
女ヴァンパイア二人に向き直り、春川は軽い足取りで彼女らの元に向かった。
「あ、そーだ。聖水かけといてね、マルちゃん」
春川にそう言われ、誠一郎は藤内に渡された聖水を中年男のヴァンパイアにかけた。
――これでいいだろう。
振り向けば、春川のほうもカタが付いたようで、地面には女ヴァンパイアが横たわっていた。
「終わり、かな? こっちも頼むわ、マルちゃん。サツが来ないうちにさっさとずらかろうぜ、見つかるとちょっち面倒だからな」
残りの二人にも聖水をかけ、討伐は終了した。
「ノーランクが3匹だと、大した額にならねえんだよなあ、今度の日曜デートだってのに。せめてEランクくらい、出てきてもらいたいもんだぜ」
Eランク……その単語を耳にした時、誠一郎の中である記憶が蘇った。搬入口でナビを見たとき、反応は4つだった。一つはE、あとの三つがN……それらがランクを示すものならば……。
「春川くん、VHナビの反応は!?」
未だアップデート中の誠一郎のVHナビはあてにならないので、春川に確認してもらうしかない。
「ああ……そうそう! あのゲーム、クソだよね。オレ、買ってすぐに売りに行ったら5600円で売れたよ。るーちゃんも早めに手放した方がいいぜ!」
春川は彼女と通話中だった。
まったく……春川も春川だが相手の娘は一体どんな教育をうけているのだろう。親の顔を一度見てみたいものだと、誠一郎はまた鼻息を荒くした。
「ん、またねー」
通話を終えた春川に詰めより、VHナビを起動してもらった。
「お? ボーナスチャンスじゃん。Eランクちゃんがまだ近くにいるぜ。反応はこのハム園の中みたいだな。手分けして探そう、見つけたらワンコくれ」
春川はそれだけ言うと、嬉々として公園の中を走り出していった。
ワンコの意味は分からないが、見つけたら春川に電話して知らせればいいだろう。しかし、Eランクヴァンパイアとはどんな相手なのだろうか?
10年以上生きているからには、先ほどのノーランクとは比べ物にならないに違いない。
誠一郎はどうせ相手にするなら、EランクよりEカップのほうがいいナー。とこっそり鼻の下を伸ばしたのだった。
ナビのアップデートはまだ終わっていないので、仕方なくその辺りをうろついてみることにする。
「おや、丸山田さんじゃないですか!」
声のした方向を振り向けば、先週はす向かいに越して来た吉村さんが笑顔で手を振っていた。
吉村のスーツに包まれ、引き締まった体は誠一郎とは対照的だ。
20代半ばの、野生的で、筋肉質なその容姿は、近所の奥さんのハートを見事にキャッチしていた。
「こんなところで、どうしたんです?」
まずい、この辺りにはEランクヴァンパイアがいるのだ。吉村を巻き込まないように避難させなければ……。
「こんばんは吉村さん。いえ、ちょっと夜の散歩ですよ、家には居場所が無くてね……」
「丸山田さんも年頃の娘さんを持ってたいへんですね」
世間話などをしている場合ではない。
「それより、吉村さん。この辺は物騒だから、そろそろ家にお帰りになったほうがいいですよ?」
「そうですね、近頃の若者は怖いですからね。私の様なオジサンはさっさと退散しますよ」
20代後半くらいの吉村がオジサンなら、誠一郎はオジイサンだろう。
吉村は屈託の無い笑みを浮かべ、誠一郎の後ろについて歩いた。だがその笑顔をすぐに消すと、代わりに凶悪な犬歯を現した。