嵐のように駆け抜けろ、丸山田 誠一郎
公園をハム園と読み間違える春川に、誠一郎は一抹の不安を覚えた。
「春川くん、あれはなんて読むんだい?」
目の前の『月極駐車場』の看板を指差し尋ねた。
「決まってんじゃん! つきぎめちゅうしゃじょう。だろ? げっきょくちゅうしゃじょうじゃないぜー? んもう、こんな簡単な漢字も読めないのかよ、マルちゃんはー。困った子でちゅねー」
春川は薄くなり始めた誠一郎の髪をなでた。
「さ、早いとこ三合ハム園に行こうぜ。逃げられたらトメちゃんに殴られちゃう」
槍のような物を担ぎなおし、春川は駆け出した……ハム園に向かって。離されまいと誠一郎も必死に走る。
不思議だった。いつもならばすぐに切れてしまう息も、1キロ程走ってもなんともない。ヴァンパイアハンターになったおかげで、身体能力が向上しているのかもしれない。
マタドールの赤い布に突っ込む猛牛の様に、ドスドスと体重1?0kgの巨体が時速40kmで駆け抜けた。
「到着っと……反応は中央の池の辺りか、行くぜマルちゃん」
三合公園は中央に大きな池があり、休日の昼間は親子連れで散歩したり、カップルがいちゃついていて賑わっているのだが、夜ともなればまた別の顔を見せていた。
「おーいるいる。ナビの反応からして、ノーランクが3匹……余裕だな」
池の周りには中年の男性と若い女性が二人。先日のヴァンパイア達と同じように舌を出し、目は空ろだった。こちらに気付いたのかよろよろと向かってくる。
春川が槍の様な物を覆っていた布を外すと、中から銀色の槍が出てきた。
いや、あれは……そうだ『はじめよう!杭打ち検定5級』で写真紹介されていた。
「オレの得意武器、『銀の杭打ち機』さ」
2m程の長さの金属棒の先端に、鋭い銀色の杭が備え付けられており、棒と杭はシリンダーの様な物を介してつながっている。目標に突き刺した瞬間にシリンダー内の火薬が炸裂し、打突力を大幅に増幅し相手を貫く……。対ヴァンパイア兵器の中で、最も高い威力を持ち、最も扱いが難しい武器……そうテキストに書かれていた。
「さ~て、今日もトバシちゃいますかね」
春川めがけて中年男のヴァンパイアが駆け出した。中年男の拳は春川を捉えているが、春川にかわす気配は無い。
春川はゆらりと陽炎の様に一瞬で右に避けると、ステークを右肩に担いだまま、右足で膝蹴りを放つ。
顔面にヒットし中年男は数歩後退りした。
「オレのモットーは地球と女の子に優しく! ヤローとヴァンパイアに厳しく! あんたにゃダブルで厳しいぜ?」
春川は数歩の距離を一気に詰め、中年男に接近し、左手で掌底を中年男の腹に打ち付ける。流れるような動きでそのまま右足で男の顎を蹴り上げ、男は重力から解放された。
春川はニヤリとした表情でステークを構える。
やがて中年男は重力に従い、地上へと帰ってくる。
春川は落下してきた中年男の腹にステークを突き刺し――。インパクトの瞬間、轟音と共に男は爆ぜた。
「マルちゃん、杭打ち検定準1級のオレの腕前、どうよ?」
三日月を背にステークを肩に担いだ春川の姿は……。
――ホレそうなくらい、カッコよかった。