念願のスマホを手に入れたぞ、丸山田 誠一郎
登場人物紹介
春川 優人
高校3年生。17歳。アイドルの様な容姿と軽いノリの少年。
学校での評判は良く、生徒会長も務めるほど人望もある。
が、それは全て演技で本質はかなりアホ。
アホではあるが、勉強はかなりできるらしく、国立大学へ進学予定。
ついでに誠一郎の娘、瑠奈の初の彼氏である。
藤内 彩華
20前後の物腰柔らかで、美しい女性。
とある事件をきっかけに、留子と知り合いヴァンパイアハンターとなった。
剣術の腕は確かで、抜剣の瞬間は一瞬ではあるが、笑顔が消える。
午後5時をまわり、研修初日が終了した。
オランウータンが木の枝に捕まるように、高々と両手を振り上げ誠一郎は伸びをする。
留子と二人きりの講義室に誠一郎のあくびが静寂を切り裂いた。
「夜の実戦の前にこれをお前に渡しておく」
オランウータンの右手に、留子から最新機種のスマートフォンが手渡される。
「業務用に使ってくれ、私、藤内、春川、あとこの店の電話番号はすでに登録しておいたから、確認してみろ」
電話帳を開いてみる。
『トメたそ』、『きょぬー』、『バカ』、『自店』の4件が登録されていた。
「解りやすい名前だろ?」
『きょぬー』が藤内で、『バカ』は春川なのだろう、『トメたそ』はあえてスルーした。後でちゃんと名前を変えておいたほうがいいかもしれない。
「あれ? この女の子の顔みたいなアプリは何なんです?」
アプリケーション一覧に、ドット絵で書かれた、黒髪の女の子がウィンクしているアイコンがあった。よく見れば留子に似ている。アプリケーション名は『VHナビ』という名前だった。
「ヴァンパイアハンターナビ。略してVHナビだ。そいつを使えばGPSを通じて、ヴァンパイアの位置をお知らせしてくれる。便利な世の中になったもんだな」
うんうん、と留子は感慨深そうに何度も頷いた。
「ちなみにプログラミングしたの私だ。下請けなんかにやらせたら、ムダに金がかかってしょうがないからな、あまり使わないプログラミング言語だから、苦労したんだぞ」
留子はプログラムもできるらしい。
「ちゃんとアップデートしとけよ、バッググラウンドで使用しておけば、万一ヴァンパイアが出現した時に、アラーム音が鳴るようにしてあるんだ」
なるほど、こいつでヴァンパイアの位置を確認し現場へ向かえということか。突然着信音が鳴り響き、驚いた誠一郎は、携帯を机の下に落としてしまった。
「壊したら初任給から……解ってるな?」
留子のかわいらしい顔が恐ろしいオーラを発していた。
肥えたブルドッグが犬小屋に入るように、誠一郎は机の下に潜りこんだ。頑張って前足を伸ばし、ようやく捕まえることができた。
「一体誰からだろう?」
ディスプレイには着信中 きょぬーと表示されていた。
『オレオレオレ!!』
電話に出ると若い男が早口で、いきなりオレを連呼しまくった。オレオレ詐欺だろうか?
「どちらさまでしょうか?」
『ちょっとちょっとちょっと! だからオレだって! 今事故っちゃってさあ』
間違いない、典型的なオレオレ詐欺だ。
「お金ならありません、それに家には息子はおりませんので……切りますよ?」
『だから、オレだよ! 春川だよ!!』
――きょぬーは春川だった。