娘はお年頃、丸山田 誠一郎
――私には時間がない。急がなければならない。だが時間は待ってはくれない、やらなければいけない事は山積みだ。
時が止まった自分の体を見る度、留子は99年前の事を思い出す。湯船の中、洗髪中だった瑠奈の鼻歌をBGMにして目を閉じ、記憶を掘り起こした。
全てが始まったあの日、留子は全てを失った。兄も姉も、大きな屋敷も大好きだった父も……。代わりに得た物は、年を取らない不便な体と一丁の銃のみ。
元人間現在バケモノは、99年経った今でも現在進行中だ。
留子の歩んだ道は、ヴァンパイアハンターの歴史そのものと言っていい。全てのヴァンパイアの殲滅――。
だが、それを成す為には時間がない。ヴァンパイアハンターは不死ではないからだ。
100年のタイムリミット。
留子は残りの1年で全てが片付けられるとは、思っていない。だから、後進の育成と組織の強化を主軸に行動を起こした。いつ自分がいなくなっても大丈夫なように……。
「ららちゃん、もしかしてお湯熱すぎた?」
瑠奈が泡立った長い髪を手に持ち、湯船に近寄った。よほど深刻な顔をしていたのだろう、留子はそれに気付くと、満開の笑顔を咲かせた。
「大丈夫だよ。それよりお姉ちゃん、何かいい事あったの?」
――お姉ちゃん……懐かしい響きだった。
「うん、実はね……今度の日曜……彼氏と初デートなんだぁ……。資金もさっき手に入ったしぃ、もう楽しみで楽しみで」
「どんな人なの?」
今時の若者事情を知るチャンス到来だ。何より、留子の野次馬根性が大きく働いた。
「学校の先輩でね、三年生なの……もう、ちょーかっこいいの! 勉強もできるしスポーツも万能で……おまけに冗談が面白くて……」
一体どんなチート野郎なのだ。
「なんか、スーパーでバイトもやってるらしくって、家に生活費出してる好青年なんだよ! すっごいよね~」
それは一度会ってみたいもんだ。
「その人、名前なんて言うの?」
「春川 優人っていうの、かっこいい名前でしょ?」