0時だヨ全員集合、丸山田 誠一郎
「ただいまぁ……」
数時間ぶりに帰宅した我が家は深夜にもかかわらず、照明がこうこうと輝き昼間のそれと変わりがなかった。
「誰かいないのか~?」
リビングからはテレビの賑やかな音が漏れ出ている。
「うっさいな~、今いいとこなんだから静かにしてよね。あたしの邪魔すんなっての、何様よ」
――お父様だ!
などと怒鳴ろうものなら、瑠奈はおそらく一週間は口を聞いてくれないだろう。
ドアの隙間から迷惑そうに瑠奈が顔を半分出した。
「こんばんはっ」
誠一郎の巨体の影からひょこっと留子が姿を現す。
「あれ、誰その子? ちょ、まさかオヤジ、エンコー? キモ……」
瑠奈は留子と誠一郎の関係を一番最悪な形で想像したようだ。
「違うんだ瑠奈……この子は……そう、パパの上司のお嬢さんなんだ。当分預かることになったから、仲良くしてやってくれないか?」
留子は瑠奈の前に出て、愛くるしい笑顔で自己紹介する。
「高城 ららです、よろしくね。瑠奈お姉ちゃんっ」
留子の潤んだ瞳は、母親を求める仔猫の様に儚く、瑠奈の母性本能をくすぐった。およそ数時間前に見せたヴァンパイアハンターの顔は、そこにはない。外見通りの幼い少女の姿であった。
留子のアプローチは瑠奈のハートにクリティカルヒットだったようで、瑠奈は留子をぎゅっと抱きしめた。
「ららちゃんっていうんだ。かわいい~私一人っ子だったから妹が欲しかったんだよね……仲良くしようね。お姉ちゃんと一緒にテレビ見よ!」
そう言って16歳のお姉ちゃんが113歳の妹を抱きかかえてリビングに消えた。
高城 ららは誠一郎が留子に言われ即興で作り上げた偽名である。
『今風でかわいらしい名前を考えろ』
それが留子から下されたファーストミッションだった。
――どうも本名が嫌いらしい。
ちなみに、この名前は誠一郎が、大×3好きなエッチなビデオに出演している、お気に入りの女優さんの苗字と名前をつなげたものだ。
留子がそれを知ったらどうなるだろうか……おそらくタダではすむまい。
「あなた、帰ってたの?」
妻の美雪がバスローブ姿で脱衣所から出てきたところだった。体からは石鹸のいい匂いと湯気がもわもわと立ち上がっている。
30代後半とは思えないほどの引き締まった体。美しくも、幼さを残した女優の様な顔立ち。濡れた長い髪、上気した頬、みずみずしい太腿……。およそ男を引き付ける全ての魅力が、バスローブの中にあった。
街を歩けば、男に声を掛けられるのは日常茶飯事で、女子大生と間違われしばしばちょっかいをかけられている。
その度に誠一郎がワンワンと声を張り上げ、番犬の様に吼えるのだが、タヌキの置物と間違われるのが関の山で、番犬の効果など無い。誠一郎にはおよそ不釣合いなこの美人妻との馴れ初めは、またの機会にしておこう。
誠一郎は生唾をゴクリと飲み干し、よこしまな考えを捨て意を決し口を開いた。
「……大事な話があるんだ。瑠奈と一緒に私の書斎に来てくれないか?」