門限は0時まで、丸山田 誠一郎
「明日からお前にはここで働いてもらう」
留子に突然そう言われ、誠一郎はボンレスハムの様な首を傾げるしかなかった。聞けば、このスーパーフジタニはヴァンパイアハンター協会の傘下にある企業で、他にも有名な大手企業のトップにも、協会の幹部が就任しているらしい。
ヴァンパイアの存在を一般人に秘匿する為、今まで徹底した情報規制が敷かれていた事を考えれば、その影響力と政界への発言力は計り知れない。
「考えてもみろ。『お父さん明日からヴァンパイアハンターになるね』、なんて言ったらお前の家族はどんな顔をする? 『なにこのオヤジ、キモイ』『あなた、早く病院に行ってきて、ご近所の恥だわ』。みたいな反応しか示さんだろ?」
留子の微妙なモノマネにどう反応したらいいのか解らず、誠一郎はとりあえず、こくこくと壊れたおもちゃの様に首を動かした。
「そこでだ、表向きはスーパーフジタニの社員としてここに勤務する形にする。昼間は研修だ。面倒は私が見る。ただ、夜は春川と組んで実戦に入ってもらうがな」
ヴァンパイアは夜にしか力を発揮できない。だがそれは同時に、ヴァンパイアと同じ変異の流れを汲む、ヴァンパイアハンターも同様に昼間はただの人間なのだ。
だから戦闘が発生するのは夜間のみで、昼間は春川は学校に、藤内はスーパーフジタニのレジ係りとして行動している。
「入社の手続き等は全て藤内がやってくれる。お前は明日からの研修に備えて今日は早く家に帰って休め。いっぺんに全部説明しても混乱するだけしな。研修を通じて理解していけばいいさ」
ふと時計を見ると、時刻は午後11時をまわっていた。
「いつの間にこんな時間に……早く帰らないと門限がやばい!」
丸山田家では、日付が変わると入り口は完全に施錠され、翌朝までホームレス気分を満喫できる恐ろしい罰があった(誠一郎限定だが)。
二階から忍び込もうとして、何度か不審者に間違われ、警察のご厄介になったことも多々あるのだ。
「それなら早く準備しろ、帰るぞ」
留子に急かされ、誠一郎は店舗前の駐車場まで駆け足で移動した。
途中、搬入口ですれ違った藤内と春川に挨拶をし家路につく。
「よかった、なんとか間に合いそうだ……」
ホッと安堵のため息をつくと、隣に並んで歩いていた留子が口を開いた。
「お前の家、このあたりなのか。なかなかいい所に住んでるじゃないか」
「あれ、師匠の家もこのあたりなんですか?」
偶然の出来事に誠一郎は戸惑った、できればあんまり私生活に関わらないで欲しい。
「ああ、違う違う。当分お前と一緒に暮らしてやる、弟子の面倒はちゃんと見てやらないとな」