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エピローグ

 あれから3週間経った。日曜の夜の激戦……吉村、田中 聖一郎を失って『T』は崩壊した。エリーはあの後どこへともなく姿を消し、行方不明である。


 『T』と小泉がいなくなった今、当面の脅威は消え去った。しかし、春川 優人にとっての脅威はまだ消え去っていない。


 『責任を取れ』そう言われたのだ。義理の父親……丸山田 誠一郎に。


 自室の机の上で突っ伏し、春川は顔の下敷きにしていた書類に目を向ける。薄赤い文字で印字された記入用紙。


「婚姻届って……しかも、オレ。婿養子って……丸山田 優人って……ださすぎだろ、それ……」


 春川はどうしたのものか、悩んで悩んで悩みまくった挙句、机の端に転がっていたボールペンを手に取った。


 スーパーフジタニ三合店。地下に存在するヴァンパイアハンター事務所。その演習場で、誠一郎は剣術の訓練を受けていた。


 そして、その訓練を指導する留子は呆れ返る。すでに数本の剣をへし折っているし、数本のステークを壊している。ムダ弾も、数えればキリがない。誠一郎は、飼育費のみならず、調教費もまた恐ろしい金額となっていた。


 あの決戦で見せた誠一郎の力……春川のVHナビにはSランクと表示されていたが、あれは単なるバグだった。今はデバッグをして、修正もかけているが、アプリ開発者である留子がバグを出してしまった事実は、一大事だった。VHナビver2.0の開発も、少し難航しそうである。


 誠一郎曰く、『家族を守る愛の力』らしいのだが……疑問は尽きない。


 ふと、あの夜迎えに来てくれた美雪の言葉を思い出す。『ららちゃんも家族なんだから』。唐突に抱きつかれて……涙を流されるとは思わなかった


 高城 らら。偽りの名前。誠一郎の考えた非常に腹立たしい名前。しかし――。


「何十年ぶりかな……心配されたのは。もう少し……付き合ってやるか。あの家族は色々、面白い。この命果てるその時までの……いいヒマ潰しになる」


 留子は演習場を後にし、ゲームセンターへ消えた。


 印藤家。時刻は18時を回り、印藤にとって大好きな兄の帰ってくる時間だ。


「ただいま、加奈子」


「お帰りなさい、お兄ちゃん!!」


 いつも以上に上機嫌な兄の姿に、印藤も釣られて上機嫌になる。


「加奈子。今日は、お兄ちゃんの大切な人を連れてきたんだ」


「大切な人?」


 印藤は眉をひそめる。兄にとって大切な人……自分のポジションがその人にとられる。そんな不安が一瞬よぎる。


「入ってくれ」


「お邪魔します……」


 玄関のドアの隙間から顔を出したのは、20代前半くらいの美しい女性だった。しかし、その顔つきにはどこか見知った人間の面影がある。


「紹介するよ。春川 ニ葉(ふたば)さん。お姉さんが一人と、妹さんが10人いて、一番下の弟さんはなんと、加奈子の学校の先輩だそうだ! いやあ、奇遇だなあ」


 印藤は、でれでれとテレながら春川の二番目の姉、二葉の肩に手を掛けた兄を呆然と見上げていた。世間というのは、あまりにも狭すぎる。


 夕暮れの公園。ブランコに揺られながら誠一郎は一つの封筒を空に掲げ、それを満足そうに見上げていた。


 突然、世界の終わりの様な地響きが起こり、全身に衝撃が走った。


「壊しちゃったよ……あはは」


 誠一郎の体重に耐え切れず、ブランコの鎖がはじけたのだった。しかし、気分は相変わらず上機嫌。


 手の中の封筒……給与明細。この一ヶ月の苦労の結果がここにある。はやる気持ちを抑えきれず、公園のブランコの上でこっそり開けてみることにしたのだ。


 一体いくらになっているのか……誠一郎は生唾をゴクリと飲み込み、封を切る。


「えええええええええええええええええええ!?」


 誠一郎はその金額に腰を抜かした。家に帰ってどう言い訳をすべきか……頭の中をフル回転させる。


 いくらなんでも、この金額は予想外だった。


 壊れたブランコに背を向け、とぼとぼと帰宅する。


 落としてしまった給与明細には、どこをどうみても、0しか書いていなかったのである。


「一億円なんて金額……もらっちゃっていいのかなあ……」


 誠一郎は、疲れのたまった足を引きずるように歩く。大切な家族の待つ我が家へと……。


 50代から始める基礎戦闘術 ~終~

終了しました。後日、誤字脱字の確認をしてあとがきを添えて完結とします。

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