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  作者: nicora
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第1章




隣りから、強く土をふみしめる音がした。

「透、おまえさ」

唾をのみこむ喉仏を視界にいれる。

遠目に住宅街が見える。それに緑も。

いままで夏休みの計画で盛り上がっていたのに、いきなりどうしたのだろうか。

幼馴染である維は同じ高校生と思いたくないほど、大人っぽい雰囲気を昔からもっている。

彼は自覚していないようだが、黒髪にすっきりとした目元が彼を雄々しく見せているのだ。

言いたくもないが。

一瞬、幼いころの残像が視界の隅を横ぎったようにみえた。

「なに?いきなりどうしたんだよ」

彼の異様な様子に胸騒ぎがした。

体内からくすぐられる感覚。

雲の影響なのだろうか。目の前が、すこし陰りだす。

維が目を細めた。

ぎしりぎしり。

なにかが歪む。

ゆっくりと感覚から奪われる。

俺のなにかが水を吸ったように、つめたく重くなった。

「それはこっちが聞きたいよ」

「なに維、急に。中二病みたいなふりはやめてよね」

「違う。そうじゃなくて。…そうじゃないんだ」

めずらしい。

維が言い淀んでいる姿なんて、何年ぶりだろうか。

維は中学校に上がったあたりからだろうか。

ぱったりと迷いをあまり見せなくなった。

彼がなにかを提案するときは、彼の中で答えがでているのだ。

俺が口出しすることも、いっしょに考えることも許してはくれなくなった。

彼は強い。それが俺の中の解答だ。

口には死んでも出してやらない。

「なんだよ。そんなにいいにくいことなら、言わなくっていいじゃん。今じゃなくったっていつでも話せるんだしさ」

早くはやく。道をつくらなければ。

この空気を振り払って。虚像でならべたてた、甘美な世界にまたひたりたい。

どんなに足元がおぼつかなくても、俺の世界はそこしかないのだから。

維、おまえは俺の親友だろう。小さなころから、泥だらけの手をつなぎあったじゃん。

だから、それ以上は言うなよ。

夏の土の匂いが地面からこみあげてくる。

もう夏がはじまったのだ。

きっと今年も、課題に押しつぶされながらも、たのしい夏休みになる。

蝉の声と、むせかえるような夏の匂いにつつまれた瑠璃色の思い出が出来上がるのだ。

きっときっとだ。なのに、君はそれを許してはくれないのか。

「おまえは、透明なんだよ」

名は、人物をあらわすっていうけど本当なんだな。

彼は呆けたようにそう付け足したが俺には届いていなかった。

維はやっぱり幼馴染であって、維なのだ。

だからこそ、聞いてはいけなかった。言ってはいけなかった。

維の言葉は俺に容赦なくささるから。維の言葉しか俺にはささらないから。

維の言葉は、俺をずたぼろに引き裂くでも、崩すでもなく、ただ静かに殺していく。

「篠原は、もういない。亡くなったんだよ」

日が照ってきた。遠くに雲が霞んでいく。細く白く青くなくなっていく。


ああ。どこにいっちゃうんだよ。

俺の顔が熱を感じとった。

まだ俺の顔を隠していてくれ。








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