第25話:許すとお思いか?
「いやぁしかし、派手にやったもんですなぁ! まさか、同じ敵を討とうと集まった仲間たちをこんな風にしてしまうとは! 『蛇の巣』って平気でこんなことするんですね! 本当にサイテー!」
「っ!? てめぇ……!! いったい何しやがった……!!」
「さぁ? 足りない頭でも使って考えたらどうだ? 星5つなんだろ? ……あ、ごっめーん! 頭は鶏の星1つだったらわかんないよね! ごめんね! 君にはとけない問題出しちゃってさ!」
こちらを見ていない間に短距離の『転移』で刃から抜け出した俺は、そう言ってケラケラと笑って見せた。
実際やったことは単純である。
空間魔法として新しく習得した『接続』、これが犯人だ。
名前の通り、指定空間と指定空間を結びつける魔法で、その使用用途として真っ先に挙げられるのはSFでもおなじみのワープであろうか。
効果そのものは『転移』と似通ってはいるものの、『接続』はそれ以外にもいろいろとつかえるため汎用性が高いのだ。
例えば、『転移』はモノを一瞬で移動させる魔法なのだがそれは目に見えているモノに限る。しかし『接続』は対象がモノではなく、あくまでも空間同士をつなげる魔法だ。
そのため、今のように防御としての利用が可能となる。
例えば、俺の体の表面に『接続』の穴を作り、その『接続』先を相手の体内に設定する。そしてその穴に向かって相手が剣を突き刺せば、俺は無傷なうえに相手の体の中から剣がこんにちはしてくる。
魔法や矢などの飛び道具に対しても、俺を『接続』元として、先を相手の背後にしてやればあら不思議。魔法及び矢を放った瞬間その攻撃が射手の真後ろから飛んでくるのだ。
つまるところ、カウンターである。
今回も刃の触れた体の表面と、周りの冒険者共の体……正確には首を『接続』でつなげたに過ぎない。
全員の位置は『探知』で確認済みだ。
まぁ、魔法の使えないイーケンスにはさっぱり理解できないだろうけど。
「おいアロウ!! あれはなんだ!? 魔法か!? 何がどうなってやがんだ……!?」
「わ、わかりません……!! 魔力が使われたのはわかりましたが、それ以外のことは何も……!!」
アロウへと怒号を飛ばすイーケンスは、その答えに「使えねぇな……!!」と悪態を吐く。
やはり、魔力持ちなだけあってかアロウは魔力を使った何かであることは理解しているのだろう。
だがしきりに、「知らない……こんな魔法は知らない……!」と狼狽しているのを見るに、改めて空間魔法と言うものの特異性を実感させられる。
……もしかしたら俺と似たようなのが他にいるかもしれないが。
マリーンとか何か知ってるかなぁと内心で考えながら、一歩、また一歩とイーケンスに向かって歩を進める。
それだけで、奴は動きを止めて、こちらを見据えた。
だがその目は、得体のしれない、未知の何かを前にして怯えたものだった。
「こ、こっちにく、来るんじゃねぇ……!!」
「えー、さっきは傘下になれとかさんざん言っておいてそれかよ。情けなくなーい? ほら、そう怖がるなって。そんなに嫌ならその手に持ったご立派な武器で遠ざけてみろよ?」
「っ……! クゥッ……!!」
「あれ、やらないの? どんどん距離が縮まるよぉー? いいのかなぁー? ん?」
煽るように笑って見せながらイーケンスに歩み寄る。
まぁ攻撃なんてできないだろうさ。何せ、さっきから攻撃するたびに自分の仲間が死んでいくのだから。
そんな状況下で、迂闊には攻撃できねぇよなぁ?
「グッ……! ウッ……!?」
距離を詰めるたびに後ろへと後ずさりするイーケンス。
その姿のなんて滑稽なことか。先ほどまで強者として振舞っていた男の今がこれだ。
そうして、笑みを浮かべた俺が更に一歩踏み込む。
すると、まるでこの時を待っていたとばかりにイーケンスが笑みを浮かべて叫んだ。
「馬鹿が! かかったな!!」
笑みを浮かべて蛇腹剣を振るったイーケンス。
しかし、その刃は俺ではなく、その後方へと伸びていく。
「無警戒にガキから離れやがって! 遊び相手がなくなるのは癪だが、俺に手を出したらどうなるか、あのガキで教えてやらぁ!!」
一直線に刃が向けられたのは俺を信じて目と耳をふさいで待つリップちゃんだった。
俺はその刃を振り返って見ることもなく、また一歩距離を詰める。
「後悔しやが――」
カンッ、と刃が何かに阻まれる。
「――は?」
「ハハハ。何鳩が豆鉄砲……いやこっちだとそうは言わないのか? まぁいいや。ともかく、何も対策してないわけがないでしょう?」
やっぱりおつむが弱いですねぇ、と目を見開いたまま固まってしまったイーケンスへと一歩詰めた。
それだけで、彼我の距離はもう2メートルもない。
あらかじめ、リップちゃんは『分隔』で対応済みだ。
『分隔』は対象を壁で仕切ることで別空間に隔離する魔法。今のリップちゃんはあの場にいるように見えて俺たちと同じ空間上にはいないのだ。
故に、魔法ならともかく、物理的な干渉はほとんど意味をなさない。もしあの守りを貫くなら、同じく魔法で干渉して破壊する他ないだろう。
まさに、俺が使える最強の盾である。
ちなみに、視覚情報や音なんかも遮断可能。こんな惨状、小さい子には見せてはいけないからな。配慮のできる魔法使いとは俺のこと。
「おっと、アロウ。その場から動くんじゃねぇぞ。何かしたとたん、体の中から剣が生えてくるかもしれないぜ?」
「っ……! いったい、何なんですかあなたは……!?」
『探知』でこっそり動こうとしていたアロウにくぎを刺し、さて、と改めてイーケンスへと向き直った。
「別にね、俺はあんたら相手にここまでやろうなんて考えてもなかったんだぜ? 本当は」
「な……なに……? う、嘘を吐くんじゃねぇ……!! ここまでやってその気がないわけが――」
「殺そうとしてたやつが何言ってんだよ」
全力の『纏い』で強化した剣の一振りがイーケンスの手元に握られていた蛇腹剣を掠める。
ただそれだけで蛇腹剣はパキン、と音をたてて斬れてしまった。
「なっ……!? ア、アダマンタイトだぞ!? な、何で鉄で……!?」
「偽物でも掴まされたんじゃね? 可哀想に。知らんけど」
アダマンタイト。確かこの世界における金属の中でもかなり希少で高価なものだったはず。武器屋で見かけたことがるが、アダマンタイトで作られた武器はかなりのお値段だった。
もちろん、俺の鉄の剣で斬ったわけではない。
斬る瞬間に、『断裂』で斬っただけであるが、それがわからないイーケンスにはただの鉄の武器がアダマンタイトを切断したように見えたのだろう。
「なぁ、『王蛇』。怖いだろ? 意味の分からないうちにもしかしたら死ぬかもしれないってのはさ」
後ずさりするうちにこけて倒れてしまったイーケンスの目線に合わせるようにしゃがみ込む。
それでもなお後ろに下がろうとするイーケンスだったが、残念なことに後ろには大木。もうそれ以上は下がれそうにない。
後ろの木を見た後にこちらを見たイーケンスに向けて、俺はにっこりと笑って見せた。
「な、なにが言いたい……」
「だから言っただろ? 別に殺すつもりもないんだってこっちは」
その言葉に希望でも見いだせたのか、イーケンスの目がわずかに見開かれた。
もしかしたら、生き残れるかもしれないという希望を抱けたのだろうか。
「でもな、お前らは俺の限度を超えたんだわ」
だからこそ、そんな希望は潰さなければならない。
「俺だけを相手にするんだったらまだよかった。別に無視すればいいだけの話だし、囲まれて粘着されたところで逃げる自信もあった。だがお前らは、あの子に手を出した」
笑みを辞め、真顔でその顔面に剣先を突きつける。
「そんなことされたら、そのまんまにはできんわな? 放っておけば、今後もあの子たちに手を出すかもしれない。危険な目に合わされるかもしれない」
「し、しない!! も、もう絶対に手は出さ――」
「信じるわけがねぇだろ犯罪者が」
突きつけていた剣でイーケンスの背後にあった木を突き刺す。
その際に剣はイーケンスの首を浅く斬り裂いた。
短い、怯えるような悲鳴が目の前の男から零れた。
「今迄も言うこと聞かなかった冒険者を殺してきたんだろ? 今更自分は助かるなんてこと思ってねぇよなぁ?」
「グッ……! クゥッ……!! アロウ!!」
怯えてながら、しかしそれでも自分を奮い立たせたのだろうか。
最後の抵抗とばかりに腕を振り上げたイーケンスは、その拳を目の前の俺に向けて振り下ろす。
「使え!!」
「っ!? わ、わかりました……!」
「じゃあな」
木に突き刺していた剣をさらに奥へと突き刺す。
たったそれだけの行動で、刃はイーケンスの心臓を貫き、そしてアロウの心臓までも同時に貫いた。
突き刺した場所を二人の心臓へと直接『接続』した結果である。
イーケンスの拳が振り下ろされる前に力なく地に落ち、そして少し離れた場所にいたアロウの体も崩れ落ちた。
その様子を確認し、ふぅ、と息をついた俺は木に突き刺した剣を抜く。
血濡れになったその剣を魔法で出した水で洗い流した。
「……人、殺したのか」
結構なことをやったと思うのだが、自分の中ではそれほど大きなショックがない。
現代日本に生きて20年以上のはずだが、ここまでショックを受けないものなのだろうか。
「神様に、何かいじられたのかねぇ……ん?」
転生の際に精神でもいじられてるのかと考えていると、アロウが倒れた場所から赤い光の柱が立ち上った。
そしてそれはまっすぐに、空を目指してどこまでも伸びていく。
「なんだこれ……?」
気になって近づいてみれば、その光の発生源は転がっていた木箱だった。
どうやらその蓋が開いているようだ。
拾い上げてそれを見てみれば、それはランタンのような形をしている。
「この感じは……魔力か。てことは、魔道具?」
恐らく、イーケンスがアロウに向かって使えといったのはこれのことだろう。
二人同時に仕留めたつもりだったが、どうやら魔道具は使われてしまったようだった。
しかし、いったい何の魔道具――
「……っ。これは……ちょっとまずいな」
森の奥へと目を向ける。
目に見える範囲にはまだ確認できていない。
しかし『探知』は、森の奥から迫りくる魔物の群れを捉えていた。
どう考えても異常事態。もしかしなくてもこの魔道具によるものだろう。
持っていても仕方ないため、俺はその木箱をアロウの死体の傍に置く。
バレないとわかっていても、こいつらが持っていたヤバそうなアイテムを所持したくはない。
「お待たせリップちゃん! ごめんね、いっぱい待たせちゃって」
すぐに踵を返した俺は、リップちゃんに使用していた『分隔』を解くとその体を再び抱き上げてすぐさまその場から移動した。
死体の転がる場所をこんな小さい子に見せるわけにはいかないからね。
俺の言うことを聞いて目も耳もふさいでいた彼女は、抱き上げるのと同時に「おわったの……?」と俺を見上げて聞いてきた。
「ああ。もうお家に帰れるよ。ただ、ちょっとこわーい魔物さんが来てるから急いで帰るんだけど、念のためにもう一度だけ目を閉じてもらえるかな」
そう言うと、リップちゃんは「えー」と少し不機嫌そうになる。
まぁ、小さい子はあまり我慢はできないものだ。ここまでずっと言うことを聞いて我慢してくれていたのにまたと言われればそりゃそうなる。
「おねがい! 帰ったらお菓子買ってあげるからさ」
「ほんと! ならリップがんばる!」
そう言ってギュッと目を閉じる姿は年相応で大変可愛らしい。
ああ、荒んだ心が癒されていくー
「おし、すぐだから待ってな!」
『拡張』した懐から黒のローブと木の仮面を取り出し、『固定』で外れないように装着した。
次の瞬間には『転移』でその場から離脱するのであった。




