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水を読む器  作者: katari
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4 はかたなる さとのうるはし ゆめとこそおもへ

船で往くこと十五日あまり。

師時もろときの周到な手配により、途中の港々での接待や休息が多かったため、

通常の旅程より二、三日は多くかかったが、使節団は無事に太宰府の地へと着いた。


博頼ひろよりが乗る船は、那珂川の河口まで入っていく。

遠くには、外交の拠点として名高い鴻臚館が見えるが、

ここは、近年、宋との交易の中心が移ってきているという博多の津である。


真新しく整備された道に並ぶ倉庫には、所狭しと舶来品が並べられている。

都の優雅さとは全く異なる、活気に満ちた異国の匂いに、博頼は圧倒された。


硫黄のニオイが微かに漂っている。

いくつかの倉庫には、宋へと運ぶのであろう刀剣や漆器がみえた。


博頼は、その喧騒と異文化の雑踏のただ中にあって、知的好奇心を抑えられない。

「何かよき書物が大陸より来ていないか」と、新しい知識との邂逅を求めて思わずそわそわする。

都の閉鎖的な世界とは全く異なるこの博多の空気は、まるで現実離れした夢の中にいるようであった。


みやこみる たさいのもみち からのかせ

              わかこころにそ かはれとふかむ


(太宰府の地の紅葉をみていると都を思い出す。されど唐から伝わる文物がもたらす風は私を新天地を楽しむよう心変わりさせる)


博頼たちが牛車に乗り換えて移動する頃には、早くも夕餉の支度の煙が上がり始めていた。

大宰府政庁へは明日向かうこととなり、博頼は今晩お世話になる邸へと案内された。


博頼は寝殿で、邸の主人と対面する。

「このたびは、お世話になります。従六位上行中務少内記、北条博頼と申します」

「はるばる、ようこそおいでくださいました。北条内記殿。

大宰少監だざいしょうげん 従六位上じゅろくいじょう葦里あしさと忠塘のただとうと申します」


博頼は、その名を聞いて思わず目を見張った。

「葦里と申されるか。京におる従五位 典連ふみつら 殿をご存知か?

私は、ありがたくも典連殿と親しくさせていただいております」


博頼がそう尋ねると、忠塘は驚きに目を見開いた。

「なんと。これはしたり!」と声を上げた。


「葦里の一族は、承平天慶の乱の折に、この筑紫の地にて活躍しました。

その頃京へと上った者の末裔が典連殿です。

私とは五世代前のつながりではありますが、葦里の本拠地、根深は米の実りよき地でありますゆえ、

その血縁のつながりは絶えることなく続いております」


「さようですか。これは良き縁となりましたな」

二人して、にっこりと微笑む。

博頼は、太宰府の地に着いて早々、思いもかけず友の一族に会うことができたことに縁を感じずにいられなかった。


懐の文を触りながら、苦笑してつぶやく。

「典連よ。文は必要なかったぞ」


忠塘は随分気をよくして、博頼のために宴を催した。

流石は、太宰府の地。

その趣向は、さすがの博頼も見知らぬものばかりで、目を奪われてばかりいた。


「ときに内記殿」

異国の楽が響くなか、忠塘が博頼に耳打ちした。

「なにか?」

「くわしくは明日、帥の君よりお達しがあろうが、今回の話、戸惑われるような経験をなさるかもしれませぬ」


博頼は問いかけるように目を向ける。

軽く笑いながら、忠塘が続けた。

「せっかく来られたのだ。四つ郷に古からつづく習わしを詳しく学んでいきなされ」


博頼は疑問を持ちつつも、曖昧にうなずく。風が一筋吹いた。


夜の月を映す池に向かって、鼓と鉦が織りなす奏が満たされていった。

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