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第七章:女神の奏でる浄化と再生のフーガ

闘技場の全景が、固唾を飲んで中央を見守る観客たちの熱気で歪んで見える。いよいよ決勝戦だ。


『さぁ! 前代未聞の一戦! 特別枠出場の悪魔の王子アレス! ここまで見事な戦いっぷりで4戦全勝! その強さは本物! 神々の頂点に最も近い悪魔が、今、誕生するのか!』


実況の声が高らかに響き渡る。割れんばかりの歓声の中、アレスが闘技場へと入場する。その姿には、これまでの戦いを経て得た自信と、神になるという強い決意がみなぎっていた。


「こらぁ悪魔! 調子乗ってんじゃないわよ!」


観客席から、ひときわ大きな声が飛ぶ。見れば、真宮寺彩音が身を乗り出してアレスを煽っていた。


「なんだと! 人間!」


アレスも負けじと応える。


「アンタなんか、ゆうにかかったら秒殺なんだから! ベー!」


彩音は舌を出して挑発する。


「貴様ぁ! おれはどんな強い奴が来たって絶対に勝つ!!」


アレスは拳を握りしめ、闘志を燃やす。


『さぁー! 対するのはこちらはシード枠での初出場!! ……えーと……かみなし……神……無し神社……』


実況が対戦相手を紹介しようとして、その名前に戸惑う。観客席もざわつき始めた。「神がいない神社?」「聞いたことないな」「シードだからなにかあるんだろ?」など、疑問の声が飛び交う。


『し……失礼いたしました! シード枠での初出場!! 神無神社所属! 青空ゆうーー!!!』


実況が仕切り直して叫ぶ。すると、闘技場の柱の陰から、青空ゆうがひょこっと顔を出した。


「ははは……」


乾いた愛想笑いを浮かべながら、ゆうは恐る恐る闘技場の真ん中へと向かう。


「ゆうー! バシッとやってやりなさぁい!」


彩音が檄を飛ばす。その声援に応えようとしたのか、ゆうはドタッ、バタン! と盛大に顔面から転倒した。


会場がどよめく。


『おおーっと青空ゆう……倒れました! だっ大丈夫か??』


実況も心配そうだ。


「フンッ。なんだこの人間。コイツが戦えるのか?」


アレスは呆れたように呟いた。


「はは……」


ゆうは顔を押さえながら起き上がる。


「何してんのゆう! しっかり歩きなさい!」


彩音が客席から身を乗り出し、落ちそうになっている。ミューミュが慌てて抱きかかえるが、彩音はミューミュの顔を押しのけながら叫んだ。


「Kのフィギュアよ! ゆう! わかってる!」


彩音は懐から取り出した人気バレーボール漫画『QQ』の月田Kツキダ ケイのフィギュアを高く掲げた。限定版覚醒シーンエディションだ。


「わ・・わかってるわよ! ちょっと緊張してるだけよ。もう、恥ずかしいからやめてよ!」


ゆうは顔を真っ赤にして服の埃を払いながら抗議する。


VIP席では、テオスがゼウスに訝しげに尋ねていた。


「おい。彼女は大丈夫なのか?」


「さぁ。シード枠の出場だから大丈夫だろう……と思うけど」


ゼウスも成り行きが不安なようだ。


「神無神社ってしっているかい?」ゼウスが空士に問う。


「い、、いえ神無っていうぐらいですから神がいない神社……なんでしょうか……ゼウス様もご存じないんですか?」空士も知らないようだ。


「いや、ぼくもはじめて聞いた。日本には空士の事もあってよく行くが……青空ゆう……いったい何の神なんだ? アレスは殺してしまわないかな?」ゼウスはゆうの身を案じる。


「それは大丈夫だろ。この闘技場はオリジンの力で相手を殺すことはできないはずだろ」テオスが当然のように答える。


「いや。実力差がありすぎる場合、殺してしまう事もありうるよ。それに、アレスは……」ゼウスの脳裏に、魔界でのアレスの暴走がよぎった。


闘技場の中央で、アレスとゆうが相対する。


『さぁー両者闘技場の中央で相対しました! ルールをあらためて説明いたします! 武器・神具・魔法・召喚術などあらゆる技の使用が可能です。戦意喪失・立ち上がることが出来ない・試合続行不可能とみなされた場合負けとなります。相手を殺してしまった場合は失格になります。ですがご安心ください! この闘技場はオリジンの加護により護らており死ぬことはありません! 思う存分戦うことができるのでーす!!』


(コイツを倒して優勝する)アレスは真剣な顔で相手を見据える。


(殺されることはないっていっても痛いのはいっしょなんでしょ???)ゆうの心は穏やかではない。


『・・・・・それでは・・・・・闘技開始!!!』


開始の合図が響き渡る。


「ゆうー! 練習の通りにやりなさい!」


彩音の声が飛ぶ。


「わかってるって! もうっ!」


ゆうが、やや投げやりに右手を振り上げる。その瞬間、アレスは踏み込もうとして、異変に気づいた。


「な、、、なんだ、、、お、おかしいぞ」


自分の指先を見ると、まるで火傷したかのように黒ずんでいる。


「指先!?」


あれは動かないんじゃない……動けない?VIP席のゼウスが呟く。「テオスほら、アレスが少しづつ後退しているよ!」


「なに?」テオスもアレスの異変に気づく。


(こ、、、これは、、、、浄化?? コイツは全身から浄化の力を発している??)


アレスは驚愕の表情でゆうを睨みつけた。悪魔の肉体を構成する魔澱までんが、近づくだけで浄化されていく。しかも、相手は何もしていない。無意識に、これほどの浄化エネルギーを放出しているというのか。アレスの指先だけでなく、顔や腕など露出している部分が、まるで焼けただれるように変質していく。


(間違いない! 青空ゆうは浄化のエネルギーを発している!)


アレスは魔力を目に集中させる魔眼、『魔視』を発動する。ゆうの体から、巨大な浄化エネルギーの塊が立ち上っているのが見えた。


「神具!」


ゆうが腕を振り下ろすと、その言葉と共に、空中に鍵盤が出現した。


アレスは咄嗟に飛びのく。(あれは神具か!?)着地と同時に黒魔刀を抜き放ち、魔力を込める。


(鍵盤型の神具?)ゼウスが驚く。


「この程度の浄化! 黒極斬!」


アレスは叫びながら飛び掛かり、黒魔刀を横一閃に振るう。凄まじい勢いで放たれた魔力の斬撃が、ゆうへと襲い掛かった。


「セブンスコード・リフレクティブ!」


ゆうが鍵盤を叩きながら叫ぶと、彼女の眼前に、浄化のエネルギーが結晶化した六角形の光の障壁がいくつも連なって出現した。


(浄化を結晶化させた??)ゼウスとテオスが息をのむ。


ガゴォォォォォン!!


アレスの斬撃は障壁に当たって弾け飛び、そのままゆうの後ろにあった闘技場の壁に直撃し、轟音と共に破壊された。土煙が舞い上がる。


『おおっとアレスのすさまじい攻撃!! 青空ゆうは無事なのか!!』実況が叫ぶ。


土煙が晴れると、そこには無傷のゆうと、一文字に破壊された壁が現れた。ゆうはなぜか目を固くつむって固まっている。アレスは障壁を黒魔刀で両断しようとするが、びくともしない。


「く……黒極斬が効かない……」


(なんだこの魔力は! 今までの神々と明らかに違う……)障壁から伝わる強大な浄化の力に、アレスは耐えきれず飛びのいた。


「こらぁゆう!! 危ないじゃないの!! しっかり防ぎなさいよ!!」


彩音がゆうを叱咤する。


「だってー、はじめてなんだからしょうがないでしょ!!」


ゆうは抗議の声を上げる。そして、アレスの方を睨みつけた。


「いきなり危ないじゃない! 怪我したらどうするのよ! もうっ!」


「お前、戦う気があるのか!?」


アレスが問う。


「あるわけないでしょッ!」


ゆうは少しキレ気味に返す。


「なにっ! じゃあなぜ戦っている!?」


「K様フィギュアがほしいから……」


ゆうがぶつぶつと呟く。


「はぁ!?」


「K様フィギュアが欲しいから!!!」


ゆうは今度は大声で叫んだ。


「なんで私が悪魔と戦わないといけないのっ! 相手は神様だって言ってたじゃない!! だから安全だって! もーーー!」


ゆうは彩音の方を睨みつける。彩音はひゅーひゅーと下手な口笛を吹いて誤魔化している。


(絶対騙されてる!!! わたし!!)ゆうは確信する。(うぅーーでも限定Kさまのフィギュアーーー、ほしいぃぃぃぃーーーー)


(Kさま?……こいつ。何を考えている!?)アレスは理解不能な相手に苛立ち、自身の右手が大きく損傷していることに気づく。(気に入らねぇ……)


「黒極斬連刃!!」


アレスは素早い剣さばきで、次々と斬撃を繰り出す。無数の黒い刃がゆうへと殺到した。


「まてアレス!」VIP席のゼウスが叫ぶ。


「まずい! あの斬撃を受けたら観客席を巻き込んじゃうよ!! テオス! 客席の新人の神たちを護ってくれ!」


ゼウスが叫ぶよりも早く、テオスが飛び出していた。


「セイクリッド・ウォール!(神聖結界)」


テオスが客席全体を覆うように巨大な結界を展開する。


(攻撃が広範囲すぎる! セイクリッド・ウォールだけでは防ぎきれない!)ゼウスも続いて飛び出し、神技を発動する。


「ディスパーション・シールド!!(分散結界)」


神聖結界の外側に、衝撃を分散させる小規模な結界を無数に展開した。


闘技場のゆうは、迫りくる斬撃の嵐に叫んだ。


「もー! 危ないって言ってるでしょ!! セブンスコード・リフレクティブ!!」


先ほどよりも力を込めて鍵盤を叩く。重厚な和音が闘技場に鳴り響くと共に、六角形のシールドが瞬時に数を増やし、闘技場全体を縦断するように広がった。ゆうの後方すべてが、光り輝く結界で覆われる。


「なに!?」


アレス、ゼウス、テオスが目を疑う。


(な……なんだ? この広範囲の結界は!!)ゼウスは驚愕した。


ズガガガガガ!!


アレスが放った無数の斬撃は、巨大なセブンスコード・リフレクティブによって、ことごとく粉砕された。


「くっ……この人間……いや、青空ゆう!……黒極斬連刃をすべて防いだだと……」


一撃も通じなかった事実に、アレスは驚きを隠せない。


『おおおっとアレスの放った猛攻をとてつもない巨大シールドによってすべて粉砕したーーーー!!!』実況が興奮して叫ぶ。


(な……なんだこの巨大な結界は……)テオスも眼前に広がる光景に圧倒される。


「見たか! 悪魔!! これが神無神社の実力だ!!」


彩音が身を乗り出して挑発する。


(あの鍵盤型の神具で音を介して神技を実行させる? アルフェウスのリュラ、パーンのシリンクスのようなものってこと?)ゼウスはギリシャ神話の神具を連想していた。


「ゆう! 今度はこっちの攻撃の番よ!! 悪魔に絶望を味合わせてやりなさいっ!!」


彩音が、それこそ悪魔のような悪い顔で叫んだ。


「もう! 絶望とか私そんな悪趣味じゃないわよ!!」ゆうは反論する。(でも、さっさと終わらせてもう帰りたい!)そう思いながら、ゆうは鍵盤を弾く構えを取った。


「奏弾そうだんブラスタット!」


ゆうが叫び、鍵盤を激しく弾く。直後、ゆうから発せられる浄化のエネルギーが爆発的に拡大した。


ズンッ!


重い音が地響きと共に会場に響き渡る。


(な、なんだこの巨大なエネルギーは!?)テオスが何かを感じて警戒する。


バリッ!


直後、ゆうの周囲数メートルが、眩い光を放つ針状結晶で覆われた。


「こっこれは!?」ゼウスが驚く。「あ・・あの光は? もしかして浄化のエネルギーなのか??」


(浄化のエネルギー!?結晶化するほどのエネルギーという事か!?)テオスは目を疑う。(そ、そんなこと超高純度なエネルギーでなければ不可能だ……我々現役の神々でさえ……ましてや無名の新人の神が……)


「はっ、アレス!」ゼウスがアレスを注視する。アレスは咄嗟に防御結界を展開していたが、その結界を透過して浄化の力が彼を苛んでいた。ジュウウウウウ。全身の浄化が急速に進んでいる。


「いくわよ!」


ゆうが鍵盤を弾く。


「フォルテッシモ!!」


針状結晶が全方位に一瞬で拡散し、次の瞬間、角度を変えてアレスへと向かい、超高速で収束していく。


「いけえぇぇぇぇ!」


彩音が力強く叫んだ。


「おれは負けない!」


アレスも叫び、残された魔力を最大化する。彼の全身から黒いオーラが噴き出し、顔や腕に禍々しい文様が浮かび上がった。


ズダダダダダダダ!


アレスの体を、無数の光の結晶が貫いた。彼の体に、いくつもの大きな穴が開く。


「アッアレス!・・・・」


ゼウスがおもわず叫んだ。


(オ・・・オレはここで死ぬのか? こ・・・こんな……何もなしていない……オレは……何もなし遂げていない……)


アレスは苦悶の表情を浮かべた。


(へ・・・やだなに……死んじゃうの??)


ゆうは、自分の攻撃が予想以上の効果を発揮したことに戸惑っていた。


その時、アレスの脳裏に過去の記憶が鮮明に蘇った――



『神々のリセット 女神と悪魔』、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

貴谷一至です。

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