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第五章:悪魔の躍進と女神のティータイム

神々の闘技場は、熱気に満ちていた。円形に広がる観客席は埋め尽くされ、中央の闘技エリアでは、今まさに神々の後継者たちが激しい火花を散らしている。


「おおおおおおおお!」


勝負が決するたび、あるいは目覚ましい技が繰り出されるたび、観客席からは割れんばかりの歓声が上がる。


「そこでいいわ」


そんな喧騒の中、真宮寺彩音は観客席の最前列、それもひときわ見晴らしの良い場所にどかっと腰を下ろした。隣には、ミューミュがちょこんと正座で座る。周囲には様々な神々やその関係者が座っているが、彩音は全く意に介さない。ミューミュは手慣れた様子で持ってきた荷物から茶器を取り出し、テキパキとお茶の準備を始めた。


「あれはシヴァ神かしら……苦戦しているようね」


彩音は闘技場に視線を送り、戦況を分析する。


「てことは……vip席に……いたいた」


視線を観客席上段のVIP席に移すと、目当ての人物を見つけた。


「11代目破壊神シヴァ……後継者が苦戦しているのに相変わらずの無表情ね」


再び闘技場に目を戻す。


「今戦っているのは12代目の新人ってことね」


彩音は冷静に状況を把握していた。その隣では、ミューミュが自分だけちゃっかりとお茶をすすっている。


ズズズズ……


「ちょっとミューミュ! 自分だけずるい! 私にもちょうだい!」


彩音がお茶を要求すると、ミューミュは少し迷惑そうな顔をしながらも、「みゅ」と鳴いて、こぽこぽと湯呑に急須からお茶を注いだ。彩音も一口お茶をすする。


「あの戦っているのは? 見ない雰囲気ね。誰の後継者なのかしら?」


彩音は懐から『神様管理簿』と書かれた古風な装丁の本を取り出し、パラパラとめくり始めた。


その様子を、VIP席からゼウスが見ていた。


「あれは……ディヴァイン・クロニクル!日本人か。かれらは神様管理簿とかいってたなぁ……管理か……あんまりいい名前じゃないかな……それにしても見たことない子だ」


ゼウスが隣に視線を移すと、目を見張った。


「あれはミューミュ族……の、ミューミュ王子! ミューミュ・ド・パンスター!!」


正座してお茶をすすっているミューミュの正体に、ゼウスは驚きの声を上げた。


「ん? どうしたゼウス」


隣に座るテオスが、ゼウスの様子に気づいて尋ねる。


(ディヴァイン・クロニクルを持つ少女とミューミュ族の王子が、なんで一緒にいるんだ?)


ゼウスは二人を見つめながら、考えを巡らせた。


「あれはミューミュ王子じゃないか?」


テオスもゼウスの視線の先に気づき、驚いた様子だ。


「そうだ。隣の少女はディヴァイン・クロニクルを持っている」


ゼウスが付け加える。


「ディヴァイン・クロニクル! 悪魔の出場といい、地方予選でも予想外の事がおこるな」


テオスはどこか自嘲気味に呟いた。


「ぜぇーぜぇー、やっと着いた……」


そこへ、ボロボロになった青空ゆうがようやく到着した。その姿に、彩音とミューミュは驚く。


「ゆう! あなた何してきたの?」


「みゅ?」


ゆうはミューミュの隣に腰を下ろすと、疲れた様子で答えた。


「大丈夫よ気にしないで。傷の治りは早いから」


「そりゃそうでしょうけど」


彩音は呆れたように言う。


「それより私に紅茶くれる? ミューミュ」


ゆうが頼むと、ミューミュは「了解!」とばかりに紅茶を入れ始めた。


「ゆう。あなたがダイエットになるからって手助けしないでって言ったのよ。少しは運動しなさいよ!」


彩音がゆうを責める。ミューミュが差し出した紅茶をすすりながら、ゆうは不機嫌そうに反論した。


「だってこんなに遠いなんて思わないじゃない!」


「遠いって、庭の転移ゲートなら目の前に転移できるのに、少し離れたところがいいって言ったのはゆうでしょ! しかも5分も歩いてないわよ!」


彩音が指摘する通り、神社の庭には闘技場近くまで繋がる転移ゲートがあったのだが、ゆうが「散歩したい」と言い出したのだ。


「まぁたしかに」


ゆうは不服そうに紅茶をすする。


「ねぇミューミュ! あれ出して!」


「みゅー!」


ゆうのリクエストに、ミューミュは待ってましたとばかりに、運んできた箱を丁重に開けた。そこには、見事なホールケーキが現れた。


「うぁぁぁぁぁ!」


「みゅーーーー!」


ゆうとミューミュは感嘆の声を上げる。


「アンタたち、ここに来た目的わかってる?」


彩音が少し呆れたように、そして少し怖い顔で二人を見た。


「わかってるわよ? お散歩して、お茶して、有名な神様を見ながら! ケーキを食べる!!」


ゆうの声に合わせて、ミューミュも「みゅー!」と頷く。息ぴったりだ。


「イヤならいいわよ。彩音の分まで食べちゃうから」


ゆうがいじわるそうに言うと、彩音は慌てて抗議した。


「ちょっと、誰もそんなこと言ってないでしょ!」


三等分されたケーキを頬張りながら、彩音は感心したように言った。


「これ、ものすごくおいしいわね。いつもながら感心するけど、これってゆうの推しをイメージして作ったんでしょ?」


ゆうは真剣なまなざしでケーキを一口運び、うっとりと目を閉じた。


「そうよ! 今回は剣劇自由伝、雷光の紫龍さまのメインカラーの紫をモチーフにして作ったブドウのクランブルケーキ!」


ぱくっ。


「くぅぅぅぅぅぅ。紫龍様を想いながらおいしいってどういう事! しあわせ!」


ゆうは文字通り、幸せを噛み締めている。


その様子を、VIP席からゼウスとテオスが見つめていた。


「お茶会してるな……」


テオスが呟く。


「してるねぇ……」


ゼウスも同意する。


「あの女の子は誰だ? 出場者か? だとしたら誰の後継者だ? 今回の出場者は16人……いや、ひとり聞いたことがない出場者がいた……決勝シードの神無神社、青空ゆうか!」


テオスが思い当たる。


一方、彩音は神様管理簿をめくっていた。


「閲覧権限しかないページにも反応はないわね」


闘技場に出場している神がいる場合、該当ページが光る仕組みになっているのだが、今戦っている神を示すページは光っていない。(シヴァ神の名前が光っているページを指差しながら)「ふつう闘技に出ている神様はこうやって光るんだけど……」


闘技場では、まさにその時、勝負が決しようとしていた。


『実に予想外の事態となっております! 特別出場のアレス! 事前の予想を覆し、12代目破壊神シヴァを終始圧倒しております! しかも! なんとアレス、事前エントリーなし! 急遽作られた特別枠での出場です! そしてこれが一番驚くべきことですが……彼は悪魔です!』


実況の声が闘技場に響き渡る。


「悪魔!?」


彩音たちが驚いて闘技場に目を向ける。


「あれ? この大会って悪魔参加していいんだっけ?」


ゆうがケーキを食べながら素朴な疑問を口にする。


「良いわけないでしょ!」


彩音が即座に否定する。


「あれが悪魔……案外ふつうね。こっちが神様……こっちもふつうね。ねぇ彩音。あの戦っている以外の神様ってどこにいるの?」


ゆうが周囲を見回しながら尋ねる。


「そこら中にいるじゃない。あれも、これも、それも、ここにいるのはみーんな神様かその関係者よ」


彩音は何を今さら、という顔で答えた。


「え⁉ あれは??」ゆうが指差す。


「北欧神話のトールね」彩音が答える。


「あれは?」


「エジプト神話のホルスね」


「あれは??」


「インド神話のクリシュナ」


「あれは??」


「中国神話の八仙」


「あれは?」


「メソポタミヤ神話のイナンナ」


「あれは?」


「カナン神話のアシュラ」


彩音は淀みなく答えていく。


「えええええええ! 全員神様じゃない!!!」


ゆうは心底驚いた顔で叫んだ。


「アンタバカなの?」


彩音は呆れ顔だ。


(みんな神様なの……みんな普通だわ……)ゆうは周囲を見回し、パンパン、と手を合わせた。(……とりあえず祈っとこう)


(何言ってるの……私にしたらあなたが一番の驚きよ)彩音は祈るゆうを見ながら、心の中でため息をついた。(だけど……悪魔……何のために? 神は悪魔と戦っても格は磨かれるけど悪魔は? 何のために参加しているの?)彩音は闘技場で戦うアレスを見つめた。


その闘技場では、アレスが12代目シヴァを圧倒していた。


(こいつ強い!!)シヴァは内心で叫んでいた。(剣も体術も基本をしっかりと身に付けている。しかも王者の風格を感じる堂々とした剣だ!)彼は自分の悲しい過去を思い出し、アレスとの違いを感じていた。(僕とは違う)


VIP席のテオスも感心していた。「アレスっていったっけ? アイツの親父はディメトリアスか? しっかり鍛えてるじゃないか。正々堂々とした力の剣だ。まさに王族の剣だな」


アレスは攻め手を緩めない。


「どうした、これが神の実力か?」


(剣が効いている! 闘気を高めても暴走しない! よし! いける!)


アレスは確かな手応えを感じていた。


「たたみかけるぞ! 黒極斬!」


アレスが剣舞と共に魔法を発動する。


「こっこれは魔法詠唱を剣舞で行う魔法剣!」


シヴァは驚き、飛び退く。


VIP席のテオスも目を見張る。「魔法剣! 剣で詠唱を再現する魔法剣。よほど剣の型が身に付いていないと魔法発動が出来ない技だ」


アレスは飛び掛かり、剣撃と魔法を同時に繰り出す。


ガンガンガン!


激しい打ち合いの末、アレスのエネルギーに満ちた一振りが、シヴァの持つ三叉の神具・トリシューラを弾き飛ばした。終始押されていたシヴァは、ついに戦意を喪失し、その場に膝をついた。


(見てくれゼウス! おれは強い! 神にだって負けはしない!)アレスはゼウスへのアピールも忘れなかった。


『勝者、アレス!!』


実況が高らかに告げる。アレスは勝利の喜びを噛みしめ、拳を突き上げた。


「うぉぉぉぉぉ!」


しかし、会場は水を打ったように静まり返っていた。悪魔が神に勝利したという事実に、観客は戸惑いを隠せない。


『な……なんと12代目破壊神シヴァが負けてしまいました! 悪魔の王子アレスが勝利!!!』


実況の声だけが響く。アレスは期待していた反応が得られず、少し残念そうだったが、仕方ないと諦めて舞台を降りようとした。


パチパチパチ……


その時、VIP席から拍手が聞こえた。見ると、ゼウスが一人で拍手を送っている。それに気づいたテオスも、少し遅れて拍手を始めた。アレスの顔に笑顔が戻る。その拍手をきっかけに、会場からもまばらに拍手が湧き起こった。アレスは客席を振り返り、自分に向けられる賞賛の音を、嬉しそうに噛み締めた。


だが、その直後、VIP席にいた11代目シヴァが静かに立ち上がり、額に三つ目の目を開いた。その目が敗れた12代目を捉えると、12代目の体から何かが抜け、彼はその場で消滅してしまった。神の資格を奪われたのだ。資格を失った神は、この辺境のはざまに存在することすらできない。


「おいシヴァ! 資格を奪う事はないだろう」


ゼウスが咎めるように言った。


「破壊神シヴァの名を継ぐものが悪魔に負けるわけにはいかぬ。あいつはシヴァの名にふさわしくないという事だ」


シヴァは表情一つ変えずに答えた。非情な現実が、そこにはあった。


「アレス……悪魔の王子か……」


客席で一部始終を見ていた彩音は、アレスの名を呟き、何事か思考を巡らせていた。


「悪魔が勝っちゃったね」


「みゅみゅみゅー」


そんな緊迫した空気もどこ吹く風、ゆうとミューミュはケーキを頬張っていた。


その後、トーナメントは進行していった。


二回戦:闘神グアン・ユウ(中国神話) VS アレス WIN


三回戦:スサノオ (日本神話) VS アレス WIN


四回戦:ギルガメッシュ (メソポタミア神話) VS アレス WIN


アレスは連戦連勝。名だたる神々の後継者を次々と打ち破り、ついに決勝進出を決めた。四戦を終えたアレスは、かなり息を切らしていたが、勝利が決まった瞬間、雄叫びを上げた。


『なんとなんと大番狂わせだ! 神々の闘技で悪魔が決勝進出! これは神々の闘技、始まって以来の出来事です!』


実況が興奮気味に伝える。会場からは、今度こそ惜しみない大歓声が送られた。一回戦の時とは大違いだ。悪魔でありながら正々堂々とした戦いぶりと、その卓越した技に、観客は魅了されていたのだ。アレスが神々に認められた瞬間だった。アレスは嬉しそうに観客席に手を振り、声援に応える。自分を認めてくれる存在がいることが、彼にとっては何よりの喜びだった。


『アレス選手の悪魔とは思えない正々堂々とした戦い方と、その技の素晴らしさに始めは戸惑っていた観客もその勝利をたたえています!』実況もアレスの勝利を称賛した。

『神々のリセット 女神と悪魔』、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

貴谷一至です。

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