第四章:神々のリセットと女神候補
その頃、オリジン付近の岩山しかない道を、二人の少女と一匹の奇妙な生き物が歩いていた。
「はぁーはぁーちょっと待ってよ」
最後尾で息を切らしているのは、青空ゆう。少しふくよかな体型で、いかにも運動が苦手そうだ。
「いつも引きこもってるから、そんなだらしないのよ! すこしは外出なさい!」
先頭を行くのは、ツインテールが特徴的な11歳の少女、真宮寺彩音。活発で、ゆうとは対照的だ。
「私は好きなものに囲まれて平穏にくらしたいだけって言ってるでしょ。引きこもりじゃないってゆぅーの!」
ゆうは不満げに反論する。彼女の脳裏には、お気に入りのアニメキャラクターの絵やコミック、フィギュアに囲まれた自室の光景が浮かんでいた。
「ほら見えてきた! あれが神々の闘技場よ!!」
彩音が前方を指差す。巨大な闘技場が姿を現した。
「ここからよ! ここからわが神無かみなし神社のサクセスストーリーが始まるのよ! 見てなさい!」
彩音は拳を握りしめ、決意を語る。
「今まで馬鹿にした不信心ものを見返してやる! そして……」
彩音の顔が悪戯っぽく歪む。
「お布施がっぽり神社再建! 全世界支社! 神無神社の名を世界にとどろかせるのよ!」
野望に満ちた顔で、彩音は宣言した。
「ほら! ミューミュ! いそぐわよ!」
彩音に呼ばれ、重そうな荷物を担いだミューミュ――細身のパンダのような生き物が「みゅ……みゅー」と鳴きながら後を追う。
ようやくオリジンの前に到着すると、運営委員が慌てて駆け寄ってきた。
「おお! 参加者さまですか? 御姿が見られないので探しに来ました。もうすでに闘技は始まっています。お急ぎを!」
運営委員が一行をせかす。
「フフ。主役は遅れてやってくるものなのよ!」
彩音は自信満々に胸を張る。
「とりあえず資格の確認を」
運営委員が彩音に声をかける。
「ゆうー、この石に触ってから来なさい! 先に行ってるわよー」
彩音はゆうに指示すると、さっさと闘技場へ向かって歩き出した。
「えっ、あちらさまですか?」
運営委員は困惑する。彩音の方がどう見ても参加者本人に見えたからだ。
「ちょっと、張り切りすぎよー」
ようやくオリジンにたどり着いたゆうは、ぜぇぜぇと息を切らしている。
「だっ大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ!」
運営委員が心配そうに声をかける。
「だっ大丈夫ですっ。山道が険しくて……」
ゆうはフラッとよろめき、オリジンに手をついた。
「あわわ、歩けますか?」
運営委員がゆうを支える。(山道? そんなのあったっけ?)内心で首を傾げた。
「はぁはぁー、いったん休憩」
ゆうはオリジンに手をついたまま、肩で息をしている。
「ちょ、ちょっと置いてかないでよぉ」
少し休むと、ゆうは再び歩き出した。しかし、すぐに何もない平地でバタッと顔から転んでしまう。
「ほんとに大丈夫ですかッ!」
運営委員が駆け寄る。
「だ、、、だいじょぶで・・・す」
ゆうは顔面を強打しながらも、なんとか笑顔を作った。運営委員は心配そうにゆうを見送るしかない。ゆうはフラフラと歩き出し、そしてまたしばらくしてバタッと転んだ。
「大丈夫ですか~」
遠くから運営委員が叫ぶ。
「ダイジョブで~す……」
ゆうのか細い声が返ってきた。
(本当に大丈夫だろうか……???)
運営委員は本気で心配になった。その時、背後のオリジンが光を放った。
ブッ!
「あああ、はいはい。有資格者ですね……」
運営委員はオリジンの点灯に気づき、手元の名簿をパラパラとめくり始めた。
ブブブブ!
(認定もされている。これで参加資格はある……と)
ブブブブブブ!
ランプは点灯し続けている。
「えーと……シード枠の神無神社所属? 聞いたことないな……青空ゆう……」
運営委員が名簿で名前を見つけた瞬間、オリジンの格位灯はさらに数を増やしていた。運営委員は顔を上げ、オリジンを見上げる。
「え……え?」
ブブブブブブブ!
25個の格位灯が、すべて点灯していた。
「えええええええええ!」
運営委員は絶叫した。(最高神の……格……)
しかし、異変はそれで終わらなかった。
ブブブブブブブ!
「え?」
オリジンの側面にも格位灯が点灯し始めたのだ。運営委員はオリジンの横に回り込む。
「こ……これは」
ブブブブブブブ!
(二面……)
ブブブブブブブ!
(三面……)
ブブブブブブブ!
バサッ!
運営委員は持っていた名簿を落とした。オリジンの四面すべて、合計100個の格位灯が眩いばかりの光を放っていた。
「よ……四面全灯の格位頂点……」
運営委員の顔から血の気が引いた。彼はバッと居住まいを正すと、ゆうが歩いて行った方角に向かい、地面に額を擦り付けて正座し、最大の敬意を示した。
(四面全灯格位頂点……つっつまりそれは……)
運営委員はそーっと顔を上げた。
(青空ゆう様!!! というお名前なのかっ!!!)
そして、はっと気づく。
「あああ! お体に触れてしまった!!!」
彼は自分の両手を見つめ、興奮で顔を紅潮させた。
「一生手を洗わないぞっ!!!」
運営委員は心に固く誓ったのだった。
『神々のリセット 女神と悪魔』、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
貴谷一至です。
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