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少女の事情

まったく話が分からない…


ロイドも同じか、表情から焦りは見えないものの黙って少女を見つめていた。


なにか話が進むまでは黙って見ていよう。



少女の方はと言うと、ロイドに「ごめんなさい」と言って、合わせて頭を下げて固まっている。


恐怖か反省か、ずっと体に力が入っているようで肩を小刻みに震わせていた。


さっきまで威嚇の姿勢を見せていた猫は、いつの間にか成り行きを見守るように少女の傍に小さく座り込んでいる。




「あ、あの…」


果物を両手でロイドに差し出していた少女が沈黙を破った。


赤いロングヘアの少女が顔をあげる。



年は僕より少し下か、10歳前後。


大きな目に、やや小さめの鼻と口、相応の幼い雰囲気をまとった普通の女の子だった。



「すみません、考え事をしていました」とロイドが口を開く。


「私たちはそこの果物を取っていた猫を追いかけてきたのですが…」


ロイドが猫を指さすと、猫は威嚇するような鳴き声を上げて、少女の後ろに隠れた。


「これですよね。ごめんなさい、返します」


少女が震える手をロイドの顔の前にあげる。


「返す…ということはあなたが猫に盗みの指示を出していたのですか?」


ロイドが丁寧に尋ねると少女は黙って頷いた。


こんな女の子が盗みを…



「そうですか…ただ、謝る相手は私たちではありません。その謝罪は果物屋の店主にしてください」


ロイドはそう少女に伝えた後、「あなたもですよ」と後ろの黒猫に声をかける。


黒猫は言葉がわかるのか、頷くように頭を下げた。



泥棒も捕まえたし、これで一件落着…!


そう思って立ち上がろうとすると


「さっき言っていた母の病気とは何のことですか?」


ロイドが再び口を開いた。


そういえば、そんなこと言ってたな。



「良ければ聞かせてください」

ロイドが優しく言うと、少女は涙を堪えながらゆっくりとしゃべり出した。



「私のお母さん、半年くらい前から目の病気で、だんだん目が見えなくなってるの…」


「目の病気…それで?」


「一か月くらい前に、お母さんがその木が満開になっているのをもう一回だけ見たいって言ってるの聞いて…」


少女が広場の中央に立った一本の木を指さした。



この広場にあって、唯一目を引くもの。


「サルベナですか…」


ロイドが呟く。


サルベナとは、この国の広い地域に分布しているこの国を象徴する広葉樹と花の名である。


この小さな街カンドの街中でも至る所で確認できるサルベナの木だが、大きさは様々で、目の前にあるような2、3メートルのものから、大きいものでは10メートルを超えるものもある。


大小様々なこのサルベナだが春に白い花を咲かせる。


その花びらが舞う景色はまるで季節外れの雪のようで、この雪を見て春の到来を感じるのはこの国ならではのものという話を母から聞いたことがある。


しかし、全身に真っ白の花を纏うサルベナを見ることができるのは、ほんの数日のみで今年はまだ先だ。




「そう…でも、その木が咲くのはまだ先でしょ?」


「だから、この果物を括り付け満開に見せたかったということですね?」


ロイドが尋ねると少女は静かに頷いた。


「それで、あるときここに座ってたらこの猫ちゃんが来てね」


少女が膝元に座っている黒猫の背を撫でる。


「言葉なんてわかるわけないって思ったんだけど…でも一人で抱えてたくなかったからそのことを話してみたの」


少女が続ける。


「そしたら次の日、この子が果物を咥えてここに来たの。その次の日もそのまた次の日も」


「あるとき、どこから取ってきてるのって聞いたら、市場の方に案内されて。それで盗んできてるってわかったの…」


少女の肩が震え出す。


「わかったけど…それでも、お母さんが笑ってるところ見たくて…ごめんなさい…!」


「なるほど。そういうことですか」


ロイドが顎に手をかけて頷いた後、急に立ち上がって


「そのお母さんのところへ案内していただけませんか?」と少女に手を差し伸べた。



ポカンとした表情の少女。


意図がわからないのは僕も一緒だった。



「だめですかね?」


ロイドが頬を掻きながら再び尋ねると


「あ、いいです!…けど」

と慌ててロイドの手を取って立ち上がった。


「こっち」と少女がロイドの手を引いていく。


訳の分からない僕は、猫と顔を見合わせる。

向こうも僕と同じな様子で。

互いに首をかしげると二人で二人の後を追った。



この猫にはいい思い出ないけど、意外とかわいいやつなのかもしれない。

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