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追跡


「あっ!次、あそこの角っ!」



後ろに続くロイドに声をかけた瞬間、視界の先で小さな影が角を曲がった。


狭い石畳の小道を脇の花壇や木箱を避けて駆け抜ける。


黒猫が曲がっていった道にぶつかる直前、スピードを緩めて顔だけ出し気持ち程度の安全を確認する。


幸い通行人はいない。

僕はすぐに頭を切り替え、顔をあげた。



————————


当初の計画は、白い果物セルべドに夢中になっている間に、僕とロイドさんが素早く後ろから捕らえるというものだったのだが…


ターゲットは足音を忍ばせて駆け寄った僕たちを、さも最初から気づいていたかのような反応と華麗な身のこなしで躱し、軽やかな足取りで路地に近づいて、こちらを一瞥するとサッと中へ逃げ込んでいった。


こちらをチラリと見やった際の小馬鹿にするように細めた目が何故か強く印象的だった。



そこから昨日同様、追いかけっこが始まる。

今回の追っ手は二人。


黒猫は果物を咥えていることなど問題にせず、入り組んだ小道を右に左に進んでいく。


カンドの街中を知り尽くしている僕でも、消えそうな背中を捉えるのがやっとだった。


————————そして再び、今。




猫はどこ行った!?

たしか、こっちに曲がっていったよな!?


いた!


顔をあげた先の分かれ道に再び小さな黒い背中を捉える。


後を追おうために、走り出そうとした時

「エミル!猫はどこに行きましたか!?」


追い付いてきたロイドが息を整えながら尋ねてきた。



「今あそこの角を左に曲がりました!」


小道の先を指さす。


「追いかけますね!」とロイドに声をかけ、先を急ごうとすると、ロイドが杖の持ち手を僕の肩にかけて引いた。


「うわっ!」

思わずバランスを崩す。


「何ですか急に。逃げちゃいますよ」


ちょっと肩痛かったし…


肩をさすりながら尋ねると「あ、すみません」とロイドが杖を引いた。


「黒猫はあそこの角を左に曲がったんですね?ということは……わかりますか?」


…?

ということは?

何かあったっけ?


水を向けられた僕は問いの答えを求めて、小道の先を思い浮かべる。



「…あっ」


ロイドが口端をあげて頷いた。


「そうです。私の記憶が正しければ…あの先は住宅が集まる小さな広場があるはずです」



ロイドに言われて気づく。


この先の広場はいくつかの家が円を描くように並んだ小さなもので、広場に繋がる道は僕たちがこれから行くものしかない。


一言で言うと、行き止まりなのである。



「行き止まりってことですよね?でも、家をジャンプで超えていっちゃうかもしれませんよ?急いだほうがいいんじゃないですか?」


前を歩き出したロイドに追いつくように駆け寄って尋ねる。


「私たちが家を超えるすべはありませんから、どちらにしてもこの先の広場までですよ」


まあ、確かに。


そういうことならとロイドの隣に並んで歩く。

猫が曲がっていった角を左に曲がる。

さっき浮かんだ通り、そこには小さな広場があった。


ロイドと二人で顔だけ覗かせる。


木造建築の一階建ての家が並び、広場の真ん中には2、3メートルの小さな木が一本あった。


ところで、中には追っていた猫どころか、人一人見当たらない。



「…いませんね」


隣に囁くと、「しーっ」とロイドが口前に指を立てた。


その後、手を耳の方に持っていく。


真似して、耳を澄ましていると

「…がとうねっ。たい…だったで…」


薄っすらと、少女の声が聞こえてきた。




ロイドに優しく肩を叩かれる。


ロイドは再び口元に指を立てた後、広場の端をそっと指さした。



慎重に目をやると、小さな家の前でさっきの黒猫と少女がしゃがんでいるのが見えた。


少女が小さな手で猫を撫でながら声をかけている。


もう片方の手には、黒猫が盗んでいったセルべドがある。



「あの果物…あの少女が盗ませていたってことなんですかね…」


声を潜めて尋ねる。


「どうでしょう。色々可能性はありますから…」


ロイドが顎に手をかける。

可能性でも考えているのだろうか。


ただ、こうして二人で様子を眺めていても埒が明かない気がする。


「それで、どうしますか?」


「んーそうですね。とりあえず、事情を聞いてみるしかなさそうですね」


ロイドは「エミルは横で見ていてください」と言うと、少女のもとへ歩き出した。


僕は言われた通り横についていく。



少女に近づくと、まず黒猫の方が僕たちに気づいた。


こちらを威嚇するように構える。


今度は黒猫の様子を見た少女が僕たちに気づいた。


目が合うとビクッと肩を震わせる。

表情は今にも泣きそうに見える。



二人の傍に着くとロイドが腰を落して少女に目線を合わせる。


「すみません。少しお伺いしたいことがありまして…」


ロイドが丁寧に声をかけたその時——


「ごめんなさい。お母さんが病気なの…!」

少女が涙を堪えながら訴えるように声をあげた。

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