そんなわけで昼食
「お待たせ」
ドリスが戻ってきた。
手にランタンはない。
「で」
座ってロイドを見る。
また空気が変わった。
最初のやつだ…
ロイドもそれを察したのか、少し背筋を伸ばす。
もう声は荒げないでほしいな~
びっくりするし。
「他の三つはどうする?」
口端をあげたドリスがロイドを覗き込む。
目は笑っていない。
「それはもちろん!やりますとも」
ロイドがひきつった笑みを浮かべて何度も頷く。
当然と言えば当然か。
「よし」
ドリスの表情から硬さがなくなる。
途端に、知らずに入っていた肩の力が抜けた。
説教なんかにはもう巻き込まれたくないものだ…
一応ドリスの用は一通り終わった様で、空になった二つのカップを手にキッチンに向かう。
ロイド先生は最後まで貰えませんでした。
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「少々お待ちください」
そう言うと、ウェイターは一礼して去っていった。
ふ~、一つ息を吐いたロイドが持っていたメニューを閉じてテーブルの端に置く。
情報屋の小さな家を出た僕たちは、遅めの昼食をとるべくメ―ティアの街中を散策し、良さげな雰囲気の店に入っていた。
至る所から漂ってくる食欲をそそられる香りのせいで店を選ぶのも一苦労し、この『アルティ』に決めたときには時刻は三時を回ってしまった。もうおやつの時間だ。
ところで、一つばかり気になることがある…
今僕の向かいには先生が座っている、それは当然だ。
そうじゃなくって、僕が気になってるのはその隣。
先に届いた真っ赤な飲み物をストローで吸い上げて満面の笑みを浮かべている一見可愛らしい女の子の方だ。
あの家を出てから当たり前のようについてきているが、そろそろ触れてもいいかな…?いいよね…?
と、意を決して口を開きかけたその時——
「ところで、なぜあなたもいるんですか…?」
耐えかねた様子のロイドが先にそれに言及した。
「なんでだ?だめだったか?」
ストローから口を外したドリスが不思議そうにロイドを見つめる。
「いえ、だめではありませんが…昼食はとってないんですか?」
「ああ、もともと、何にしようかと歩いていたらお前を見つけたからな」
「それはそれは失礼いたしました…」
「もっと失礼いたしていることがあるだろうが、バカタレ」
そうロイドに言い放つと再びストローに顔を近づける。
グラスのコップの真ん中辺りまであった赤い(辛そうな)液体が一気に吸い上げられ、空になった。
「それにエミルとも、もっと話してみたかったしな」
満足気な表情のドリスが言う。
「僕とですか?」
「ああ、そうだ。ロイドなんかを先生にしようとするやつ、興味が湧かないわけないだろ」
「なんかってなんですか。なんかって」
ロイドが不満げに呟く。
今のところ妥当かもしれませんけどね。
口にはしない。
「っていうのは冗談で。エミル、お前魔道具に興味あってカンドを出てきたんだろ?」
「はい」
返事を聞いたドリスはう~んと考え込むもすぐによしっと頷いて言った。
「なら残りの依頼はお前も一緒に行ってこい」
「残りですか」
まあ、もともとそのつもりだったけど。
それにしてもなんで急に。
「ああ、お前はまだ魔道具はもちろんこの世界についての知識がなさすぎる」
ぐうの音も出ない。
カンドの位置すら知らなかったんだから。
「いいだろ?ロイド」
ドリスが隣に目を向けると
「ええ、もともとそのつもりでしたから」
ロイドが真剣な顔で頷いた。
「もともとはこなせてないとダメなんだよ、バカタレ」
今度は頭をはたかれるロイド。
「……」
「ってわけで、これも勉強だ。わかったな」
「はい」
後で残った依頼がどんな内容なのかも聞いとかないとな。
と、会話がひと段落したタイミングで
「お待たせしました~」
両手にお皿を抱えたウェイターがやってきた。
「アルティセット『赤』をご注文のお客様」
手をあげたドリスの前に『赤』の皿が置かれる。
小さい頃、絵本で見た地獄に似てる…ほんとに食べ物か?これ。
これが初見の感想。
「アルティセット『白』のお客様」
今度はロイドが手をあげた。
『白』が置かれる。
注文を終えたときに「フレンチトースト楽しみですね~」と言っていたので、なんとなく母が作ってくれたものを想像していた。
のだが…
まず、テーブルに置かれた拍子に縁並々に注がれたシロップの水面?が揺れた。
トーストは浮いてる。
トーストの他にバターのかけらなんかも浮いてる。
スープじゃん、それ。
両方ともパン料理のはずなんだけどな…
当の本人たちは少しも疑問に思わずに、早速食事を始める。
とりあえずお腹ペコペコだし、食べちゃお。
食欲に促されるまま、少し遅れて届いた自分のバーガーを前にエミルは手を合わせた。




