着いて早速!?
見渡す限りの大草原に引かれた道を進み、時に川辺で野生の草食動物と一緒に休憩し、鬱蒼とした森の横を警戒しつつ抜け、丘から風に舞うサルベナの花びらの姿を堪能し、夜はテントでロイド先生の魔道具一口話に目を輝かせ、道の分岐点で地図と睨めっこし、無人と思われた街道に僕たち以外に利用者がチラホラ現れ始めた、出発から数日後の今日。
「見えましたね。流石に長かった…」
遂に目的地であるメ―ティアを遠目にとらえた。
「あれが……メ―ティアですか」
「どうです?大きいでしょう」
ロイドが得意気に笑ってみせた。
確かに。門ですら、あれより大きい建造物はカンドにはないと思う。
それに、門の上側に屋根らしい突起が見えてるってことは街中にはもっと大きい建物があるってことだ。
まだ一個目でこれ…
体の芯からゾクゾクする何かが込み上げてくる。
期待か不安かは分からない。
「着いたらまずこの間言っていた人に会いに行くんですよね?」
「んー。どうしましょう。食事や宿取りを先にしてもいいと考えていたのですが…エミルはお腹空いていたりしますか?」
日の位置は丁度頭の真上くらい、なのだが。
今日も今日とて、ロイドさんの隣でおしゃべりをしているだけで正直まだお腹は空いていない。
「あんまり、空いてないです。もう少し後でもいいかな~」
「では、先に昔馴染みのもとへ向かいましょうかね」
ロイドが指を立てて言った。
「うわ~おっきいな~」
近づくと威圧感すらおぼえる大迫力の石門を見上げて呟く。
「カンドには、あまり大きな建物はありませんからね~それに、この門はこの辺りの街でも大きい部類ですからなおさら」
じゃあ、僕いきなり大きいの見ちゃったんだ。
ちょっと残念…
そんなことを考えているとロイドに「止まりますよ」と声をかけられる。
もう着いたのかと顔をあげると、門の手前で門兵が手をあげてこちらに合図しているのが見えた。
ロイドが門兵に手をあげて返事をし、ゆっくりと馬車のスピードを緩める。
寸前で止まると、全身をチェーンメイルで覆った若い門兵がロイドの傍へと駆け寄ってきた。
「こんにちは!今日はどのような目的で?」
「旅の寄り道ですかね」
「念のため荷馬車を確認してもよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんよ」
ロイドが笑顔で頷いた。
しばらくして、荷馬車の確認を終えた兵士と今度は身分証云々のやり取りをし、入場の許可をもらったロイドは門兵に目礼すると馬車を進ませる。
大きな石門をくぐり、こうして僕は初めて故郷以外の街に足を踏み入れた。
入場してすぐの外壁に沿うように並ぶ馬繋場、その隣に広くとられたスペースに馬車を止める。
「さて、着きましたね。早速行きましょうか」
軽い身のこなしで馬車から降りたロイドが手を払って、ハットのつばを持ち上げた。
すごい…!
辺りを見れば、人、人、人。
どこを向いても必ず視界に人が映る。
次に 目を惹かれるのはこの整備された道と、ほとんど隙間なく立ち並んでいる建物の数々。
普通の民家から看板をぶら下げたお店まで様々だ。
僕の家なんてご近所さんでも何十歩も歩くのに。
数は多くないにせよ街灯なんかも立っている。
夜はあれがつくから外も明るいんだろうな~
休むことなく顔を動かしていると
「どうですか?メ―ティアは」
隣を歩くロイドが尋ねてきた。
「すごいですよっ。何もかも違う!」
興奮気味に返すと、ロイドは微笑みを浮かべて何度も頷いた。
「そうですそう。これこそ、旅の醍醐味。このために世界を転々としていると言っても過言ではありませんからね」
こぶしにグッと力を入れて言い切るロイドに——
「過言だろ」
小さいが良く通った声で一言。
ロイドが足を止める。
僕じゃないですよ。
じゃあ僕じゃないなら誰が?
これだけ人通りの多い道だから会話が噛み合った?
それとも、意図して否定してきた知らない誰かがいるってこと?
争いごとは好きじゃないから…
僕の空耳か、別の会話と噛み合ったがいいな~
などという僕の望みとは裏腹に、明らかに意図して言い返してきたであろう本人が目の前でロイドを睨みつけて立っていた。
誰だろ…?
ロイドさんの知り合いかな。
気にはなるが、目の前の人の殺気をも含んでいそうな表情を前に「誰ですか?」などと尋ねる勇気は僕にはない。
ロイドの陰に隠れて成り行きを見守る。
すると、本人、上半身が隠れるほどの大きさの紙袋を抱えた黒髪の少女がゆっくりと口を開いた。
「いつぶりだ?」
「ええっと…数か月ぶり…でしょうか」
ロイドがそっと顔を逸らす。
…!?
なんでそんな悪いことして叱られてる時みたい反応なんですか!?
思わず背中から顔を出すと——少女と目が合った。
「だれだ?お前」
少女が目を細める。
「あなたこそ…!いきなりそんな乱暴な言葉遣いで、駄目ですよ!」
見たところ年は同じくらいだろう。
一つ譲って僕にはいいとしても、ロイド先生にそんな言い方は駄目だろ!
「お前今自分と私の年が近いって見積もっただろ」
少女が指を二本立てて続ける。
「二つ。お前の間違いは二つだ。一つ、私はお前よりずっと年上だ。そしてもう一つ、駄目なのは私じゃなくてこいつだ」
そう言うと、少女?は立てていた指を一本にしロイドに突きつけた。
ロイド先生の一口話
——初めての魔道具——
幼少期、妙に気に入った指輪を昼夜問わず、肌身離さず持っていたロイド少年。
実はその指輪、はめ込まれた宝石が光る魔法が込められて。
ある家族も寝静まった夜、偶然指輪を魔道具として使ってしまいました。
真っ暗な部屋が突如昼間の如く照らされたその光景にパニックになった少年は、しかし明かりの消し方は分かりませんでした。
誰か起こして助けてもらう!?でも叱られるかも…叱られるのはいやだ…
激しい葛藤の末、少年は一晩中ベッドの中で光が漏れないように指輪を握り締め続けて、朝を迎えましたとさ。
(その後、光は消してもらえたし、お叱りも受けました。めでたしめでたし)




