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冒険の始まり!

道脇の家々に遮られ母の姿が見えなくなる。

足を踏み外さないよう注意してロイドの隣に座った。


座っている所はさっきと同じなのに視界が広い。

快晴の空の下、澄んだ空気をいっぱいに吸い込めば、これから始まる旅に胸の高鳴りを感じる。

随分、心が軽くなった気がするな。



「言えましたね。良かった良かった」


横に座るロイドが何度も頷いて呟く。


「ロイドさん、ありがとうございました。何も言えないままだったら、きっと後悔してましたから」


「……そうですね」


何の間だ?


ところで——


「ロイドさん、母さんとはどんな関係だったんですか?」


「そうですねー、昔一緒に旅した仲ですかね」


へー。

かなり気を許し合っていた印象を受けたのも納得か。


「いつもあんな感じだったんですか?あんなの様子の母さん、初めて見ましたよ」


いつも一歩引いて傍で見守ってくれていた母の姿が浮かぶ。


「あんなカルナは初めてですか。彼女なりに頑張っていたんですね…」


ロイドがしみじみと呟いた。

どっちだったんだろう?結局普段通りだったのかは分からないけどいっか。

微笑を浮かべるロイドを見てそう思う。






「ところで、黒猫の件のその後は聞きましたか?」


そう言えば、あの日以降のことはロイドさんに任せきっていた。

あの日以来、果物屋には行ってないからお金のこととかどうなったのか知らないし、アリスのお母さんのその後も聞いてない。


「どうなったんですか?結局」


「結果だけ言いますと、すべて解決しました」


「全部ですか…?」


「ええ、果物屋の方も目の病の方も」


詳しく聞いてみると、事情を説明し今まで取っていった分の代金をロイドさんが一旦払おうとしたところ、アリス親子の話に胸を打たれた店主が必要ないと突き返してきたらしい。

その後、ロイドさんも何度か支払いを試みるも、その都度要らないの一点張りだったとかで結局先に折れたのはロイドさんの方だったと。


アリスの母の病の方は薬を飲んで以降、特に異常は見られず元通りの視力にまで回復し、外を歩けるほどになったところでアリスを連れて果物屋へ直接謝罪に赴いたらしい。



まあ、解決したのならいいいか。

ロイドの話を聞きながらぼんやり街の景色を眺めていると、正面に小さな門を捉えた。


「そろそろですかね。この街ともお別れです」


「ですね…」


最後に街の景色を目に焼き付けておこうと首を動かすと、点々と立つ満開のサルベナの木のうちの一本の傍でこっちに大きく手を振っている少女とその母と思わしき影が視界に入った。


「お~い!お兄さんたち~!ママを治してくれてありがと~!」


あだあどけない少女の声が馬車まで届く。


「ロイドさんっ、あれ!」


「おや」


ピョンピョン飛び跳ねている少女に二人で手を振ると、気づいた少女が母に駆け寄る。

母と手を繋いだ少女が再びこちらに手を振る。

傍で少女の手を握りながら母がそっと頭を下げた。

ロイドがハットを取り軽い会釈で返す。

僕もそれに合わせた。



二人は顔をあげ、ロイドはハットを頭に戻す。


馬車が母子を通りすぎたとき、ふと一瞬大きな風が吹きあがった。

ほのかに暖かな春の風が心地いい。

門出を祝っているかのように舞い上がった花びらは雪のようで。



僕たちはカンドを出発した。


——————————————————————







「で、最初はどこを目指すんですか?」


広大な草原に一本真っ直ぐ引かれた道を進む馬車の上で僕は尋ねる。


「そうですね~」


ロイドが片手で手綱を握り、空いた手で器用に鞄から取り出した地図を広げる。

ロイドが広げた膝の上に乗る程度の羊皮紙にはいびつな楕円が描かれていた。

また、角ばった楕円に囲まれた内側には、所々に小さな印があり、それらを曲線が繋いでいる。



「これは…?」


「これは私たちの国、サルベナ王国とその近郊の地図です。ここを見てください」


ロイドが楕円の左下の端の方に小さく記された印を指さす。

一つだけ仲間外れにされたように打たれたその印の下には、小さな文字でカンドと書かれていた。


ここがカンド!?

こんな端っこにあったんだ、僕の故郷。

ってか、カンドだけ曲線繋がってないじゃん…



「私たちは先ほどこのカンドを出発して今はおそらく…この辺りだと思います」


ロイドがほんの少しだけ右に指を動かした。

一番近い印でもまだかなり距離がある。


「そして私たちの最初の目的地は…ここです!」


「メ―ティア…?」


ロイドが指した印の下の文字を口にする。


「そうです。ここに住むある人物に用があるので」


なるほど。

でもこれ…


「何日かかるんですか、これ」


「まあ、一日じゃ厳しいでしょうね」


開き直ったようにロイドが言う。


「そういうことですので、あまり気を張らずにのんびり行きましょう!先は長いですから」


元気良く声をあげると、片手で器用に地図を丸め鞄の中に戻した。


再び見渡す限り緑の中、馬と車輪とたまに吹く風の音だけが流れる。



「そういえば、ロイドさんもっと魔道具について教えてくださいよ」


勉強する!と言って出てきているのだ。

こんな時こそ、少しでも話を聞いておこう。


隣に目をやると気持ち悪いほどの笑みを浮かべたロイドがいた。

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