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狂う




 今日は日曜日のため、家にいる。


 やらなくちゃいけないものなどが特にないため、何をしようか迷っていたところ―――



ピンポーン



家のチャイムが響いた。


 今日は特に宅配便とかは頼んでいない。


 今月の家賃はもう支払い済み。


 となると、本当に心当たりがない。


 取り敢えず出てみようと思うが強盗とかだったら怖いため、覗き穴で確認すると―――



生寄(いより)?」



 僕の彼女、生寄がいた。


 いつもは家に来る前に連絡してくるのだが、今日は来ていないはずだ。


 スマホを確認しようと思うも、扉の外で待たせるのも悪いので中に入ってもらう。


 生寄には、部屋にある丸テーブルに座ってもらう。


 丸テーブルと言っても、調べたら出てくるオシャレなやつではなく、脚の短いやつだ。



「おはよう」


「おはよう、颯太くん。でももう11時よ?」



 そういってクスッと笑う生寄。


 うん、やっぱり可愛い。



「今日はなにか用事?」


「め、迷惑だった……? ごめん……」



 生寄はあからさまに落ち込んでしまう。


 やっぱり「なにか用?」は悪手らしい。どこで仕入れた知識かは覚えてないけど。



「全然迷惑じゃないよ。普段は家に来るなら連絡をくれるし、何かあったのかと思って」


「そ、そっか。よかった。あのね、連絡は忘れちゃっただけなの」



 生寄は、安堵した表情を見せた後に申し訳なさそうな顔をする。


 僕としては、連絡無しで来たのには驚いたけど全く問題ない。強いて言えばいつもより部屋が汚いくらい。



「うっかりミスなら僕もよくやるから、気にしないでよ」


「うん。ありがとう」


「なにか飲み物用意するよ。なにがいい? まあ、コーヒーとかお茶とかしかないんだけどね」


「あ、お願い。お茶がいいな」


「おっけー」



 僕は冷蔵庫からお茶を取ってきて、取り出したコップに注いでから生寄に持っていく。

 2人分のお茶をいれたコップを丸テーブルまで持っていき、置いてから僕も座る。



「それじゃあ今日は―――」


「あ、あのね、颯太くん」



 ―――なにをしようか、そう続けようとした僕の言葉を生寄が遮る。



「ご、ごめんなさい。遮る気はなかったの」


「別に大丈夫だよ。生寄からどうぞ」


「じゃあお言葉に甘えて……」



 別に僕の話なんて大したことないしね。


 生寄の話があるならそちらから聞くべきだろう。



「ワタシ、大学やめたの」


「……はっ?」



 生寄は何を言って―――



「ごめん、もう一回言ってくれる?」


「ごめん、声が小さかった? あのね、ワタシ大学をやめたの」


「…………」



 僕は、かなり久し振りに絶句する。



「やめようと思う……じゃなくて?」


「うん!」



 最後の希望に縋るもの、その希望は砕け散った。



 いや落ち着け颯太。


 うちの大学は半期ごとにしか出来ないはず。


 生寄が退学届を出してから少しは時間があるはずだ……



「それは、退学届を出したってことだよね?」


「うん、そう」



 よかった。


 なら、なんとかやりようがある。


 ここは一度、理由を聞いておかないと。


 退学という選択をした理由を知らないと、生寄に退学をやめさせる説得もできない。



「なんで、大学を辞めるの?」



 僕が問うと、生寄は恍惚とした表情になり―――



「あのとき、颯太くんがワタシを助けてくれて―――あぁ、このヒトにワタシは尽くすために生まれたんだ、って感じたの。ワタシを守ってくれて、とってもかっこよくて……このヒトに尽くすために生まれたんだって」


「…………」


「だからね、颯太くん以外の連絡先はみーんな削除したの。ワタシにはアナタだけでいいから。アナタ以外要らない。ワタシは―――」



 僕は、恐ろしくなった。


 彼女は恐ろしいことを平然と、恍惚と、さもこうなるのが当然かのように語る。



「い、生寄……」


「なぁに? どうしたの颯太くん」


「い、いや。なんでも……ない」



 それから何を話したかは、あまり覚えていない。


 でも、ただ、僕は怖かった。








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