渋谷から異世界へ
「ここはどこだ?」
周りに広がるのは広大な草原。
渋谷の路地裏を歩いていたはずなのに…。
こんな場所まで移動した記憶はない。
そもそも渋谷の路地裏からこんな草原に繋がっている道があったのか?
……駄目だ、どれだけ考えても答えが見つかりそうにない。
謎が多すぎる現状で分かることといえば、少なくともここが日本じゃなさそうだということくらいか。
「痛っ!」
急に頭を激痛が走る。
その瞬間、眼の前にゲームのステータス画面の様なものが表示された。
名前:トシイエ・ヒジカタ
種族:人族
年齢:10
Lv:1
HP:200/200
MP:100/100
攻撃力:5
防御力:5
俊敏性:5
知力:5
運:999(MAX)
魔力:5
運以外全て1桁のステータス……。
見覚えがあるぞ、このステータス。しかも、年齢が10歳になっている。
自慢じゃないが、俺はつい数時間前に33歳の誕生日を会社のデスクでエナジードリンク片手に迎えた社畜だぞ?
それに、これってゲームのキャラクターのステータス画面だよな?
これってアニメとかでよく見る異世界転生?
いや、そんなわけないよな。
遂に働きすぎて頭でもおかしくなったか?
試しに【スキル】欄をタップしてみると、一つだけ《コール》というスキルが確認できた。
試しに《コール》と念じてみる。
「……うん、って何も起きないわな。まぁ、当然だわな。ステータス画面が見えたからって使った事もない力が使えるはずもないか」
どうやらステータス画面が出るだけで、魔法が使えるなんて事はないらしい。
それにしても、運だけが999(MAX)って……。
こんな知らない場所にいるのに信じられないな。
幸運なのか不幸なのか……。
とりあえず帰り道でも探してみるか。
……とはいえ、見渡す限り草原しかないんだが。
……お?なんか草原の向こうから馬車っぽいものが来るぞ。
誰かいれば帰り道を教えてもらえるかもしれないし、とりあえず話を伺ってみよう。
「おーい、すいませーん!ちょっとよろしいですかー!」
俺は馬車に向かって声をかける。
「ん?こんな草原のど真ん中で子供に会うとは珍しいな」
馬車が止まり御者台に座る男が話しかけてくる。
「あの、ここはどこでしょうか?俺、気づいたらここにいて……」
とりあえず現在地だけでも確認しとかないとな。
「……お前まさか、渡り人か!?」
御者の男の表情が急に険しくなる。
「渡り人?」
聞き慣れない単語に俺は首を傾げるしかない。
「お前、どこから来た?」
「渋谷です。日本の」
俺は素直に答える。
「渋谷?聞いたこともないな……。渡り人なら何か特別な力を持ってたりするのか?」
「いえ、特には……」
特別な力など持っていないし、分からないものは分からないとしか言いようがない。
「そうか……。おい、一度馬車に入れ」
そう言うと御者は俺を馬車の中に招き入れる。
「とりあえず村まで乗せて行ってやる。こんな場所にいたら命がいくつあっても足りないからな」
御者の男はそう言うと馬に鞭を入れる。
俺が渡り人だと判明した途端、態度が変わったな。
そんなに珍しい存在なのか? もしかして、結構ヤバイ状況だったりする?
しばらく馬車で揺られていると、前方に村が見えてきた。
どうやら無事に村に着くことができそうだ。
村の入り口に差し掛かると、門番が声をかけてきた。
門番はボロい鎧を着た若い青年だ。
青年は御者の男に声をかける。
「荷物を確認させてもらいます」
「おうよ。さっさとしてくれよ」
……ん?この顔どこかで見たことあるような?
俺は青年の顔をじっと見つめる。
……あ、分かった!23年前に行方不明になった近所のケンお兄ちゃんだ!
よく仲良くしてくれていたのにある日急に姿を消してしまい、近所中が大騒ぎになったからよく覚えている。
でも、なんで行方不明のケンお兄ちゃんがここにいるんだ?
ジロジロと見つめる俺に気づいたのか、ケンお兄ちゃんも目を丸くしている。
そして、驚いたような表情で俺に声をかけてきた。
「トシイエ君か?どうしてここに?」
どうやら俺のことを覚えていたみたいだ。
「……なんでケンお兄ちゃんがここに?」
「なんだお前ら、知り合いか?ボウズ、運が良かったな。」
「おじさん、乗せていただいてありがとうございました!」
「ちっ」
御者の男は小さく舌打ちして村の中に消えていった。
俺はケンお兄ちゃんにここまでの事情を説明した。
「なるほど、気づいたらここにいて、帰り道が分からないんだね」
「はい、ケンお兄ちゃんはどうしてこの村に?」
「僕も数か月前にここに迷い込んだんだ。」
とケンお兄ちゃんは答える。
数か月前?ケンお兄ちゃんがいなくなったのは23年も前のはずだぞ?
ふとさっき見たステータス画面の表示を思い出した。
種族:人族
年齢:10
Lv:1
HP:200/200
MP:100/100
攻撃力:5
防御力:5
俊敏性:5
知力:5
運:999(MAX)
魔力:5
年齢:10歳……。
そうか、俺もなぜか10歳になってるのか。
よく分からないがこの世界に来る時に23年ほど時が逆戻りして、俺は10歳の姿になってしまったらしい。
「トシイエ君はこれからどうするんだい?」
「とりあえず、この村で仕事でも探そうかと思ってます。」
帰り道が分からない今、とにかくここで生きていかないといけない。
そのためにはまずお金が必要だ。
「仕事か……。10歳でもできる仕事……」
「ケンお兄ちゃんはどうやってお金を稼いでいるの?」
「僕は冒険者をしているんだ。今は依頼を受けて村の門番をやってるけどね」
「冒険者か……。俺もやってみようかな」
「トシイエ君はまだ10歳だろ?危険だからおすすめはしないよ。」
そう言うと真面目な顔で黙り込んでしまった。
ケンお兄ちゃんは俺のことを10歳だと思っているみたいだが、実際の年齢は33歳だ。
それに、実は学生時代に剣道でインターハイに出場したこともあり腕には多少自信がある。
もう、ケンお兄ちゃんとチャンバラで遊んでいた10歳の子供ではない。
「……そうだ!」
俺はあることを閃く。
ゲームだとレベルが上がるとステータスを好きなように割り振ることができる。
ここがどこかは分からないが、自分のステータスが見られるってことはゲームの世界か、それに似た世界のはずだ。
つまり、今の俺はまだレベル1で全てのステータスが初期値だが、レベルさえ上げてしまえばどんどん強くなれるはず。
俺はお兄ちゃんに自分の考えを伝える。
「そうか。トシイエ君も渡り人か……」
そう小さくつぶやくとケンお兄ちゃんは少し考えた後、俺の考えに賛同してくれた。
どうやらこの世界では予想通り【渡り人】だけは、レベルを上げるとアビリティポイント(ABP)というポイントが手に入り、それを割り振ることでステータスを上げたり、様々なスキルを取得することができるらしい。
そして、アビリティポイント(ABP)はレベルが上がると自動的に手に入るそうだ。
つまり……レベルを上げれてステータスを強化すれば、10歳でもなんとか戦えるということだ。
「とりあえず今日は僕の泊まっている宿に泊まるといいよ。もう少ししたら終わるからそこで待っててくれるかい?」
そう言うと、ケンお兄ちゃんは村に入ろうとしている大男のもとに駆けていった。
いつの間にか太陽は傾き、松明の明かりが村を赤く染め始めていた。
(続く)




