『健二と神と小太郎』みーちゃんもいるよ!
『健二と神と小太郎』
みーちゃんもいるよ!
ここは病院
俺のベッドの側で家族が悲痛な顔で手を合わせているのが見える。泣いている?
「ごりん…じ」
医師が今、まさに俺の臨終を告げようとしている。
くすんだ灰色の世界だ。
「いよいよ俺は死ぬんだな…まだやりたいことは一杯あったけど仕方ないか病気だったんだものな…今までみんなありがとう。お父さん! お母さん!」
と、覚悟を決めたその時、突然、ドスンと音がして俺のベッドの上に何かが落ちてきた。
なのに医者も家族も誰も気づかない。
「ん…なんだ…天使の子供か? 大丈夫ですか? 痛くないでか?」
「はい、ありがとう大丈夫です。こんにちは! 僕は小太郎です。健二君! 突然ですがお願いがあって来ました。あなたの体を僕に貸して下さい」
「ん…何…体?……まあ、いいけど!」
「ええっ? そんな簡単に返事していいんですか?」
「ああ…どうせ俺はもうダメだしな」
「そう言われると辛いですが、僕には、やらなければならない使命があってその為に、どうしてもあなたの体が必要なんです。神様の許可も頂いてきました」
「神様?」
「はい、神様です。一生懸命神様のお手伝いをして頑張ってお許しを頂いてきたんです。」
「そうか、それなら遠慮しなくていいよ! どうせ俺の体は、もうすぐ焼かれてしまうんだから、そんな大切な使命なら、その前に、ぜひ俺の体を使ってくれ!」
「ありがとうございます。でも怖くないですか?」
「怖いよ! だけど今更どうにもならないし」
「わかりました。でも、悪いようには致しません!」
「わかった、じゃあよろしく…」
まもなくして健二は消えて、彼の体は…生き返った。医者は、びっくりして家族は、ひっくり返った。学校にも行けるようになり友達にも喜んでもらえた。
健二は、以前と違って食欲旺盛になりもりもり食べた。それに、何かあるとそこら中、駆け回るものだから筋肉も付いて、運動神経も抜群になった。健二の体は、元気になった。でも、中身は健二じゃない。小太郎の妖気のおかげもあって体は充分回復し病気も治った。だけど中身は小太郎だ。本当の健二はいない。
健二の中の小太郎は、忙しそうだった。使命って何なのだろう? 未だにあちこち駆けずり回っているし神様が、どうのこうの言っていたけれど、目的はわからない。だけど学校の成績はだいぶ下がったようだった。
半年ぐらい過ぎた頃
天に召されたはずの健二は目を覚ました。生きていた。異世界にでも転生したのだろうか?
いや、違う!
彼は洞窟にいた。
真っ暗な洞窟の中にいたのだ。そして眠っていた。目を覚ました時は、ただ空間を漂っていた。記憶も無く、ただ無の空間を漂っていただけだった。
ところがある日、ガガガガ
ー! と地震のような地響きが起こり岩に隙間が出来た。そこから一筋の光が差し込んできた。
「見える見えるぞ! どうもここは洞窟の中のようだ」
重そうで硬い岩の扉が少しだけ開いたので、そこから光が差し込んできたのだつた。健二は光を頼りにその隙間からすーっと抜け出てみると扉の前には、紫色の魔物がグーグー寝ているのだった。起こさないように、そう〜とそう〜とそこを通り過ぎ外に出てみたが眩しすぎて目がくらむ。
「えっ?目がないのに?」
きっとそういう感覚だけは覚えていたのでしょう。するとすーっともう一つの小さな魂も飛んできて健二の側に漂っている。
「お前は誰?」聞いたが返事は無い。
「ここは何処だろう?」何も分からない。何も出来ない。
「俺は、どうしちゃったんだろ? 俺は神に見捨てられたのか?」
何もすることが無い、ただ何となく彷徨っていた。ただふわふわと漂っていた。するといつの間にか大きな川のほとりに出ていた。
「ん…ここはなんか見覚えがあるような気がする」少しは記憶が残っているようだ。
遠くに人影が見える。
ふわふわと近付いて行くと、もう一つの小さな魂も付いてきた。あれ? あの人なんか以前、見たことがありそうだなと思った。
その人は、川原のその辺に生えている草を摘んでお湯の湧いた鍋に入れている。
「ただいま毒草と言われている…〇〇草のお浸しを作っています。ですが茹でて水にさらすと毒は薄まるんですね〜! これは、もう皆さんならご存知のサポニンと言うものでトゲトゲの結晶であるため……」と言いながら片手で撮影している。
「あっ思い出した! 確かいつも見ていた『YouTuberの〇〇さん』だ!」
近づいて行くとこちらに気付いたのか? こちらを全く見ずに、もごもごと何か喋った。
「宝台公園の奥に小さい古屋あるから行ってみるといいよ!」
と独り言のように呟いた。
「えっ俺に言っているの? 俺がいるのが分かるの?」聞いてみたが返事は無い。
何か知ってあるのかな? 気になるので、試しに行ってみようと向かうと、また、小さな魂も付いてきた。
公園は、坂を登った所にあり高台になっているのは、古代の古墳群の名残のようだ。鬱蒼とした森になっていて、その中を行くと本当に小さな古屋があった。そこだけがポッと明るい。
ドアには張り紙があり「彷徨えるあなたの為の相談室…木曜日の六時から十時」と書いてある。窓を覗くと誰もいないが机と椅子が置いてあった。
入ってみようかと入口に近づくとビリっと電気のようにしびれを感じた。バリアか? これじゃあ誰かが来るのを待つしか無い。魂の健二には、今日が何曜日なのかもわからない、と、向こうから背の高い若者が歩いて来る。学生服を着ている。向こうも気付いて
「あっ!健二くん」と言われた。
「どうぞ中に入って、温かい雲茶をお出ししますから」
誘われるままに小屋に入り、出されたお茶を飲み干した。そのお茶はモクモクしていて、それでいて温かく体の芯まで温まり、健二を目覚めさせた。今までのことが雲が切れる様にスッキリ思い出された。
そうだ、死ぬ間際、俺は小太郎に体を貸したのだった。
「ずっとあなたを待っていたのですよ」と小太郎は言った。
「実は僕は、大雨の晩に増水した川に流されそうになっている所を助けて頂いた子犬の小太郎です。あなたが拾って下さった小太郎ですよ。ちゃんと命を全うして、天に召されるまで面倒をみていただきましたが、あなたにお礼がしたくて、会いたくて、神様にお願いしたんです。」
「神様! 貴方様のお手伝いをしっかりしますから、どうか健二君を助けてください」と。
「でも、病院に駆けつけた時、あなたはもうすでに限界ぎりぎりでした。何で!…何で、早く気づかなかったんだろう! もっと早く気づいていれば、もっと早く駆けつけていれば…
それなのに、いきなりあなたに体を貸して下さいなんて言ってしまってごめんなさい!」
小太郎は、泣いていた。
「体を借りたのは、あなたの体を回復するための手段だったんです。不安にさせてごめんなさい。ですがもう大丈夫です。体は元気になりました。すぐお返出来ます。神様も協力して下さいました。」
「協力? 神様が協力?」
なんか腑に落ちない言葉だなと健二は思ったが小太郎の気持ちが嬉しかった。自分は特別、小太郎の為に何かした積りは無い。ただ一緒にいられるのが楽しくて一緒に大きくなっただけだったのに。
健二は、元の自分の体に戻れたが慣れるのに三日かかった。
小太郎は、体がないので魂になってしまったけれど、健二の側にいつもいれて幸せだった。
あっ!
それから、健二の側にくっついて離れなかった小さな魂は猫のみーちゃんだった。
みーちゃんも健二と一緒に暮らした猫で小太郎と仲良しだった。みーちゃんも雲茶を飲んで思い出しミャーミャー言えるようになった。けど、小太郎と同じ! 体は無い。
三人はそれからはずっと幸せに暮らしました。
とは、いかなかつた。
健二と犬の小太郎と猫のみーちゃんには、任務が課せられた。相談窓口の任務。
だけど小太郎とみーちゃんには体がないままだけど。
毎週木曜日は、忙しくなったが三人には苦では無かった。むしろ楽しい。その日になると客がどっと押し寄せる。ヘトヘトになりながらも三人は幸せだった。今日もドアの外には多くの彷徨う魔物たちが列をなして待っている。
「ところで神様って、何処にいるの? 白い着物を着ていた?」
「ううん、紫色だよ。目がギョロッとしていて、大きくて可愛らしいし、優しいんだ。山の洞穴に住んでるよ。」
その小太郎の答えに
健二はぎょっとした。
了