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もしかしたら俺の幼馴染は世界一可愛いのかもしれない。

作者: サチ

 単刀直入に言おう。

 俺の幼馴染は世界一可愛いのかもしれない。

 普段の姿は黒縁の丸眼鏡にツインテールといった地味子全開の姿。本人は別にそれで良かったらしいのだが、なんだか見てられなくなった俺は強制的にファッション雑誌を読ませてメイクも覚えさせた。そして休日にその成果を見てほしいと呼び出され、見に行ってみたら、そこにいたのは別人かと思うほどに可愛くなった幼馴染の姿だったのだ。

 白のワンピースに綺麗な黒髪がコントラストになって綺麗に映える。メイクでパッと華やかになた顔をほんのりと染めながら、どうかな、尋ねられた。

 けれど、その場で俺は何も言えなかった。完全に見惚れてしまっていたのだ。

 あいつはそれをダメな合図だと思ってしまったのか、寂しそうに笑ってごめんねと言い残してその日は帰った。

 正直、あの後すぐに呼び止めていなかったことを後悔している。

 もう二度とあの可愛らしい姿を見れないと思ったから……。

 

 否。


 あの姿を学校の他の奴らに見られる事になってしまったからだ。

 学校ではまた地味子モードで来ると思っていたのだ。けれど、そこにあった姿は髪を下ろして、校則にギリギリ引っかからない程度のメイクをしたあいつだったのだ。おかげで男子からも女子からも一気に認識が180度変わってしまい、今や俺が話しかける隙すらない。

 褒めてやれなかったことを謝りたかったのに、それすらもできなくなってしまった。


ーーー


 幼馴染の彼にもっと可愛くなれ、とそう言われた。

 確かに私の見た目はどれだけ甘く見ても地味子の領域を出ることができない。けれど、私としては彼が近くにいてくれたらなんでもいいと思っていたのだ。

 けれどそんな彼から直々に言われた言葉。

 もしかしたら今の私ではダメなのかもしれない、そう思った。

 そこからは彼がくれたファッション雑誌を付箋をつけ、くたびれるまで読み込み、メイクも道具を一から揃えて何度も練習した。

 そして、自分でも満足のいく姿になれた頃に私は彼を呼び出した。これまでの成果を見てほしいと。

 結果は呆然としたような、そんな無言の返事だった。

 あぁ、ダメだったのか。私は彼のお眼鏡には敵わなかったのか。そう思い、そして悲しくなった。

 ごめんね、そう残して走り去った私は、泣きながら帰った。メイクが崩れるのも、誰かに見られるのも厭わずに。

 今までの努力って何だったんだよ。

 くたびれた雑誌と、机の上に乱雑に広げられたメイク道具を見てそう思った。

 倒れるようにベッドに飛び込む。


「私、可愛くなったよ……」


 次の日の学校は休もうかと思った。

 彼と会ってしまうから。

 けれど、変なところで真面目になった私は結局行くことにする。ただそれまでと違ったのは可愛い自分で行ったという点。理由はなんてことない。彼が言葉さえくれなかった姿で行けば話しかけられないと思ったからだ。

 いざ学校についてみると今までとは違う光景が広がった。メガネからコンタクトに変えたおかげか、視界がより広くなって今まで見えていなかったものが見えるようになった。そして何より、初めて彼以外のクラスメイトたちから話しかけられた。

 今までに経験したことがなかったこと。素直に嬉しかった。けど、やっぱり彼は話しかけてこない。

 当たり前か。彼が嫌な見た目なんだから。

 時々彼の座る席の方を見るけど、彼は私が見ようとするたびに目を逸らして見てくれない。

 胸の奥をギュウっと握られるような感覚を味わう。

 痛い……。


ーーー


 苦しい……。

 喧嘩じゃないけど、こうして疎遠になるのは初めてだ。

 何なんだよこれ。

 死ぬほど心地悪い。

 部屋の空気が澱む。先ほどから窓を全開にしているにもかかわらずこの空気感だ。

 自室から出ると、最低限の荷物だけで夜の住宅街に足を繰り出した。

 うん、外の方がマシ。

 適当にほっつき歩いていると自然にあの場所に辿り着いていた。

 あいつが可愛くなった姿で俺の事を呼び出した公園。

 入り口の外からあの日の事を思い出しながら眺める。

 やっぱり、後悔しかない。


「なんで、可愛いの一言が出てこないんだよ……意気地なし」


 気分が乗らなくなって家に戻ろうと足を来た道の方に向けて帰ろうとした。

 けれど目の前が塞がっている。


「なんで……」


 目の前を塞ぐ障害……いや、地味子に戻った幼馴染がこちらを見ている。

 メガネの反射でよく見えないが、メガネの反射とはまた別のものが光って見えた。


「ま、まだこっちの方が喋ってくれる?君と話せないの、辛いし、苦しいし、しんどいし、痛いんだよ」


 顔を上げて見えた彼女の表情の全貌。

 ボロボロに涙を流して、まだ落としていなかったメイクが崩れ出している。


「ねぇ……私」


 あいつがそう言葉を続けようとしたところで俺は彼女に近づいた。


「ごめん……あの時、何も言えなくて」

「え……?」


 困惑した表情の彼女。

 俺はそんな彼女の両肩を掴んで真正面から伝えることにした。


「っ……お前はちゃんと可愛いよっ!!」

「へ?」

「あ、あの時は見惚れて言葉が出なかっただけで……本当は引き止めてでも言えれば良かったんだけど、勇気が出なくて」


 我ながら情けない。

 そして彼女は少しずつ状況を理解しだしたようだ。


「じゃ、じゃあ私のこと嫌いになってないの?」

「なるわけないだろ……何年の付き合いだと思ってるんだよ」

「んふふ……」

「な、何かおかしなこと言ったか?」

「うんん」


 首を横に振って彼女は俺の手を引く。

 先ほどまで浮かんでいた目尻の涙は笑った時にスッと流れ落ちたようだ。


「今日は帰ろっ」

「お、おぉ」


 最後は完全に彼女のペースに飲まれてしまう。

 次の日からの彼女の姿は地味子、ではなく可愛くなった方の姿。

 ただ違うのは、その姿で俺の隣に立ってにこやかに笑いながら歩いているということだろう。

 手に温もりを感じながら思うのだ。


 もしかしたら俺の幼馴染は世界一可愛いのかもしれない


 と。

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