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track4.ダンジョンの変化

 今回の通信実験で使われている魔道具について、ざっくり説明しておこう。


 まず私のいる冒険者ギルドのもの。こちらは製品化間近と言って差し支えない完成品ではあるのだが、これ自体は何の変哲もない、普通の無線通信機だ。サイズはオフィスにある複合機ぐらいとややかさばるものの、その分通信範囲もそこそこ広い。だがそれでもこれ単体だと、街から徒歩で半日以上かかるダンジョンまで音声が届かない。


 そこで登場するのが研究所の新型魔道具、中継機能付きの通信機だ。こちらを経由することで通信可能な範囲を大幅に広げることができる。その代わり大型化は避けられず、幅・奥行き・高さのすべてが三メートルくらいになってしまった。現在、研究所の倉庫の一角はこの中継機とその整備用品によって占拠されている。


 そして残るダンジョン班。こちらの魔道具は背負って持ち運べるまでに小型軽量化した、携帯型通信機の試作一号だ。遠方との通話にはパラボラアンテナの設置が必要なものの、今回の実験で街から徒歩半日程度の距離なら問題なく機能することが証明された。


『研究所、中継機の様子はどう?変に熱を持ったりはしてないかしら』


『特に問題ありません』


 三箇所での実験だが研究所とダンジョンにあるものが実験機なのに対して、ギルドにあるのは動作に問題なしと判断された完成品。そのため、研究所からここに配置されたのは私ただ一人だ。やることも通信機に十分間不具合が出ないかの確認とその記録くらいのもので、かなり楽な仕事だと思う。


 機器の状態確認が一通り終わったタイミングで、テッドさんがおもむろに口を開いた。


「ダンジョン班へ、こちらギルドマスターのテッド。ジョージ、ちょっといいか?」


『俺だ、どうした』


 私の父、ジョージに要件があったらしく、通話口に呼び出した。父の声はかなり低いバリトンボイスなのだが、携帯型越しだと母の声に比べやや聞き取りにくい。一応記録しておこう。


「例の件、今日も変わりなかったか?」


『聞いて回ったが、やはり変わりはない。近いうち来るかも知れん』


「そうか……わかった、ありがとう」


 その後特に問題なく時間は経過し、時計の砂が落ち切ったところで実験は終了となった。


『みんなお疲れ様。研究所組は実験のデータがまとまったら、ひとまず今日は休んで大丈夫だ。ダンジョン組は明日朝には馬車で街に戻るのでそのつもりで。ヘクターは……確か教会に行くんだったな、もう一踏ん張り頑張って来い。では、通信終了』


 母エミリアがそう締めくくって通信を切った。自然と大きなため息をついてしまう。


「お疲れ様。で、この後教会に行くって?相変わらず忙しいねぇ。折角だから一緒に飯でもどうかと思ったんだけどな」


 テッドさんが大袈裟に残念がって見せたので、思わず笑ってしまった。


「すみません、大陸中にラジオを普及させるまでは忙しいんですよ」


「随分と壮大な夢だよな、若者はそのくらいでちょうどいいけど」


「夢じゃなくて確定事項ですよ」


「ハハッ、そりゃ頼もしい!……ダンジョンの件、お前の予想は当たってると思うか?」


 急に顔から笑顔を消し、真剣な眼差しで私を見て言った。


「多少の自信がなきゃ、こんな予想を他人に話してないですよ」


 予想とはダンジョンの魔物、その大量発生に関してだ。


 そもそも魔物には二種類いる。ダンジョンの外で繁殖する『繁殖型』と、ダンジョンの中で発生する『発生型』だ。繁殖型の魔物は動物の見た目や生態をしているが、発生型はその限りではない。極端な例だと、たとえばスケルトンやゴーストのようにホラーじみたものや、スライムに代表される不定形の怪物など。前世のある身としてはより"モンスターらしい"と感じるものが多い。


 そして発生型は、不定期に大量発生が起きる。地域によってスタンピードとか怒涛とか色々呼び方があるらしいが、詳しくは知らない。重要なのは、大量発生した魔物はダンジョン外へと雪崩れるように出て来るということと、時期の正確な予測ができないということだ。


 辺境の名の通り、ウィンドット辺境伯領はマテリオン王国の国境に位置する領地。接している勢力は最近まで戦争状態にあったファルエリス帝国と、帝国由来の土豪がいくつか。そして、それら全てが争っていたのが私の両親が実験で訪れたダンジョン、その所有権とそこからもたらされる資源だ。


 もともとはここにあった小国の資源だったのが、二十年ほど前の王国と帝国の同時侵攻でその国が滅亡。元々の距離が帝国より近かったこともあって、ダンジョンはひとまず王国が確保した。しかし帝国が黙っているはずもなく、そこから両国による戦争が始まった。


 そして王国と帝国による侵攻レースが、両国の直接戦争にシフトしたすぐ後。ただでさえ長期に渡った戦争がさらに長引いたことに痺れを切らし、帝国のいくつかの領地が小国の残党と結託して離反。二国間による対立は、三つ巴の状態へと変わって睨み合いが続けられることになる。


 しかし今から約二年前、事態は動いた。王国側の歩み寄りで停戦条約の提案が為され帝国はこれを受諾、さらに和平条約締結のため両国間でのやり取りが活発化。一方王国はダンジョンの調査と開発に、帝国は土豪勢力への対応に注力し始めた。


 そしてウィンドットの錬金術師協会、つまり研究所には国から調査の仕事が舞い込んだ。ダンジョン周辺は戦時中、調査どころではなかったからだ。しかし私は、研究員たちには一刻も早くラジオを開発してもらわねばならない。結果的に、調査の一部を私が担当することになった。


 そして導き出した結論は、やはり正確な予測はまだできそうにないということ。そして一方で、直前に予兆のようなものが起こる場合があるということだ。


 それはたとえば繁殖型の魔物含む動物たちの動きであったり、発生型の数の減少であったり。ゴースト系の魔物ではない、本物の幽霊を見たとかいう眉唾なものまである。


「大量発生の時期は近いと思います」


 そして今、辺境伯領ではそれらの予兆が複数、かなりの規模で観測されている。私は確信を持ってテッドさんにそう告げた。


「……そうか。向こうの通信機は君のお母さん……エミリアさんがチェックしてくれたんだよね?」


 ダンジョン付近には冒険者や衛兵の詰所があり、そこにギルドのものと同じ通信用魔道具が設置されている。万が一の際にはそれを用いて詳細の連絡が来る手筈になっている。


「ええ、そのはずです」


「なら安心、か」


 そう口にするテッドさんだが、表情は曇ったままだ。


「備えは万全に。しかしそれでも不測の事態は起こるもの。そこでいかに動くかが、プロの腕の見せ所ってもんじゃないですか?」


「君は本当に、大人みたいなことを言うねぇ」


「成人まで一年切ってるんですよ?誤差ですよ、誤差。じゃあ私日輪教会に行くんで失礼しますね」


「ああ。またな、ヘクター」


 大量発生の備えもしなければいけないが、私の目標はあくまでラジオの普及、そしてこの世界のどこかにいる綾を見つけること。モンスターへの備えはプロに任せて、本日最後のアポイントメント、日輪教会へと向かった。

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