第2話.身請けの話でござりんす
「ゆいこ! あの旦那様のお相手を、何故してやらんのだ! 何度も出向いてくださってるのだぞ? あのお方は大層お金持ちで……」
「まっぴら、ごめんでありんす!」
「ゆいこ!」
いくらおやじ様の頼みだからといっても、こればかりは受けられない。何故わたしが、あの嫌な客の相手をせねばならんのだ。
わたしには、心に決めた殿方がいる。
その名を『ひろし』という。
しかし、この世界で誰が殿方を決めることができようものか。
わたしのまことの心など、口にしてはなるまい。
そんなある日、わたしのもとに、一通のふみが届いた。
それは、顔も知らぬ、高貴なお方からのふみであった。
それも、身請けしたいという申し出ではないか。
この身請けを断ることなどできない。
「あたいの恋心など、はやく燃やしてちりにしなければ……。そうでありんしょう?」
ひろしは、当然このことを知らない。
そして、それを知らせる術もわたしにはないのだ。
× × ×
「おやおや、お前さん、今日もまたひやかしかい?」
「何言ってんだい。今日はちゃんと拝みに来たさ」
「うちの店に寄ってきな」
「あいにく、行くところは決まってんだ」
ご機嫌な様子のその男は、いつもお金を払わず、見るだけ見て楽しむ、ひやかしであった。
今日もまた、殿方からのご指名ときた。
ひろしを期待してしまったが、どうやら違うようだ。
身請けもすぐとなれば、この殿方と会うのも最初で最後。
ちょいと相手でもして、つまらなければ突き放せばいい。
「ゆいこ、迎えに来たよ」
男はそう言うと、突然わたしを抱きしめた。
ひろしでもないくせに!!
ん……?
でも、わたしはこのぬくもりも知ってる気がする……。
「待たせて悪かった」
男の手が、わたしの頬に触れた。
「たくみ……」
そうだ、彼もまた手習いの塾の帰り、あたいを迎えにきてくれる殿方だ。
まことの心は、ひろしとたくみのその狭間で、揺れ動くのでありんす。
次回、第3話『あたいと殿方のトライアングルレッスン』へ続く!
身請けされてしまうゆいこ!どうする!?
また明日、更新します!