表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界病者の灰を踏む  作者: けものさん
第一章『悔いと絶望の飛び立ち』
9/100

第八話『所詮殺し合い/初戦の頃合い』

残り火と言われた施設の外は、灰に塗れた街だった。どうやら施設は高台に立っていたらしく、たどり着くべく道も一つだけ、回りは崖に覆われている。つまりは要塞というわけだ。とはいえ魔法とやらの力は未知数なのだが。


 ぞくぞくと施設から出ていく天使側の人間達の手や体には各々の武器であろう物騒な何かしらがついている。どうやらヒビクが言っていた通りに、今から殺し合いをするという雰囲気でピリピリしていた。ピピピという音が何度も鳴り響き、自動ドアが開く。開きっぱなしでは問題ではないかと思えば、その行為は三回程繰り返された。どういう原理なのだろうと思っていると、ふと全員の手についている物に目が行く。

「成る程、時計で判別しているのか」

「そだよー、便利なんだよねぇこれ。死にゃあ灰だから敵に持ってこられることも無いし、裏切りなんてもんはてんちょーが記憶を覗けるから抑止力になる。あの人はやろうと思えば残り火ほぼ全域を刻景で包み込めるからなぁ、まぁブーイング嫌ってやらんけどさぁ」

 刻景の範囲という物を初めて知った。努力でどうこうなるものなのかは分からないが、ブーイングなのは間違い無い、特に俺に至っては五秒で死ぬ。

「それで、こんなにゾロゾロと何処へ行くんです?」

 殺し合いと一言で言われても納得出来ないのは当然だ。朝日が改めてヒビクに聞くが、彼女は「まーついてきゃ分かるよー」なんて適当な事を言っている。


 納得していない様子ではあるが、黙ってついていく朝日はどうやら手ぶらのように見えた、腰にはナイフのような物が鞘に収まっていたが、こんなに軽装でいいのだろうかという程に簡易的な格好をしている。何と言ってもBARを出たままの姿なのだ。立ち上がってやっとナイフを持っている事に気付いたくらいだった。

「なぁ朝日、軽装にも程が……」

「ふふふ、無いんですな、これが」

 朝日に変わってヒビクが何処からかマントを取り出して彼女の肩にかける。見た目は俺がつけているマントと変わらなそうに見えたが、朝日は随分と重たそうにしていた。

「あぁ……、これやっぱり私が着るんですね……」

 ヒラリとめくられたマントには、片面だけで約五挺程の小さな銃があった。ハンドガンという括りに入れてもいいのかすら分からない程小さな銃、おそらくは一発程度しか装填出来ないのではないだろうか。だが彼女の刻景がスローにするという能力なのであれば、自身の刻景に影響を受けないという刻景の特性から考えるとベターなチョイスなのかもしれない。

「私、運動苦手なのになぁ……」

 朝日は溜息混じりに呟く。運動というよりは生命の取り合いなのだが、少しだけ気が緩んでいるような気もした。しかし運動が苦手という彼女の欠点も理解した上での装備なのだろう。考え方だけで言えばどちらかというと彼女自身の戦闘スタイルは『待ち』か『隠密』と言った油断を狙った一撃に頼るべきのように思える。であれば近距離で速度低下の刻景を浴びせられた魔法使いを一撃で仕留めるという行動はセオリーとしては間違っていない気がした。それ以前に人を殺すという事への抵抗がどれだけ枷になるかという事ではあるのだが。

「ほらー、見えてきたよー。高みの見物だい!」

 ヒビクに連れられしばらく歩いていると、いつのまにか殺し合いに向かうであろう人達とはだいぶ違う道を歩いていた。彼ら彼女らは街の方へ降りていったが、俺達は未だ街を見下ろせる位置にいる。というよりも、わざわざ選んだと言っても過言ではない程にその殺し合いとやらが見やすい位置に移動していた。

「手前が我らが天使陣営でー、向こうの見える? 悪魔陣営ね」

 簡単に言うが、見下ろすにしても中々の距離があり、ある程度の遮蔽物もある場所だった。だがその割には開けている。

「定例会じゃないけど、利の取り合いはやっぱり必要なんだよね。ルールみたいなもんでさ。行く行かないは自由にしても、見といた方が良いんだ。これだけは」

 少し真面目な顔をしてヒビクは殺し合いが始まるのをじっと待っているようだった。しかしよく見ると天使側と悪魔側で随分と人数に開きがあるのに気付く。

「あっち、少なくないか?」

「紫二人に緑が一人、それに青が三人かー。舐められてんねーぇ」

 目を凝らすと確かにそれぞれが色で言い表せられるような格好をしていた。

「アイツラの階級の事忘れてたね、白から始まって青黄に緑、此処らへんがギリ弱め。その上の紫赤は死ぬ気で逃げなね。黒は諦めても怒らないかな。そっから上はまぁ、見たことないからあるかはわかんない」

「それで、俺らを殺せば階級が上がる、と?」

 言っている内に天使側が三人程のチームで悪魔側へと進むのが見えた。相手が六人に対して、こちらは十二人。それでも悪魔側は慌てる様子も無く色の強弱に合わせたチームで様子を見ているようだった。

「そうそ、色が上がる度に強くなる。だからこそ向こうは弱いうちは子をちゃんと育てるわけねー、紫緑のコンビが本命だな。紫青は育て途中、青青は捨て駒かな」

 現実では無いにしろ、人間関係の厳しさはそう変わらないようだった。弱肉強食とはよく言ったものだが、そもそも弱者同士では余程の運が無ければどうしようもないのは目に見えている。

「君らもそのうちやるんだから、色くらいは覚えて帰んなね」

 ヒビクの声に朝日の生唾を飲む音が聞こえる。色くらいはなんて話では無い。既に銃声は聞こえはじめていたのだ。


――殺し合いは、始まっている。


 青青を視認したのか天使側のチームが六人がかりで狙いに行くのが見える。モノクロの風景が遠くからでも視認出来た。

「まず六と二の交換かなぁ。仕掛け屋も知ってて甘いの流してんだろうなぁ」

 白けた顔でヒビクが呟く。その言葉の通りに、何らかの刻景を使い青を一人仕留めたのが見えた。だが途端に天使側の六人の動きが遅くなる。焦っているように足を地面から引き剥がすようにして動いているようだ。

「粘着地面くらい気付けよなぁ……」

 おそらくは彼女の言う通り絡め取られているのだろう。何とかしようと思ったのか、改めてモノクロの風景が広がる。だがその中で周囲を見回していた一人がパタリと倒れた。

「んーーーー、殺し合いじゃないかもしんないね。時間切れで一人おしまい。でも変わんないか。あの紫緑は強いね。それに死んでない方の青も機転が効いてる」

 緑色だった地面の色が黒色に変わると同時にその地面に炎が放たれる。

「青が粘着地面に燃える要素を足したね、というわけで一人殺して五人死ぬでした。銃声は幾つ鳴ったかな?」

 パチパチと拍手しながらヒビクは溜息をつく。力量の差というよりも、コンビネーションの差というものが悪魔側からは感じた。

「アイツらはさ、強くなりたいのさ。でもこっちは生きていたいわけ。だからそもそも考え方や戦いへの捉え方が違うんだよね。それでもほら見て、燃えながらでも一撃入れるガッツがあるヤツもいたりしてね、灰になっちゃうのに」

 結果的に天使側が六人死に、悪魔側が二人、しかも青色だというならばルーキー卒業したてを殺したというがたった今眼の前で起こっていた事実だ。

「まぁ捨て駒二人を殺したけれど、時間を貰える人も死んでる。けれど向こうの紫と緑は六人分の経験値を得た訳だ」

 燃え尽きて何もかも灰になった天使陣営の灰を紫と緑が踏み進む。明らかに敗戦濃厚だった。

「でもほら、アッチはもう少し頑張ってるよ。時間持って帰れるかなぁ。逃げるのも手だからね、勿論」

 紫と緑の場所からは少し離れて緑と青のコンビが見える。その二人は必死に遮蔽から遮蔽へ逃げているようだった。幾つか光の線が見えているが、モノクロに止められ距離を詰められている。おそらくは魔法について限定的な刻景を持っている人がいるのだろう。

「雑魚専はこっちにもいっからねぇ、刻景・グリーンストップとか。向こうにとっちゃ迷惑な話よなぁ、まぁ団体戦では便利なんだけどさ」

 彼女が言う通り、緑が放つ光線が全て空に浮いたままになっている。

そこに銃撃が数発、どうやらワンチームは緑を仕留めきったようだ。

「でもさ、止められんのは緑だけでさ。君らじゃ見えないだろうけど、あの青はなんかしてるよ」

 彼女は何処まで見えていて、この殺し合いを何処まで予見しているのだろうか。まるで無感情かのように、当たり前の事かのように淡々と説明が続く。緑を仕留めたワンチームが刻景を使っているようだが、上から見ている俺達と本人だけが残った青がその刻景の範囲外にいるという事が分かっていたのだろう。


 光が穿つ


 脳天を穿つ


 光が穿つ


 喉を穿つ


 まるでそう詠唱でもしているように青は口ずさんでいるように見えた。チームで警戒していた方向に、青はいなかった。だからこそ青は冷静に狙ったのだろう。たった今相方が死んだのにも関わらず。緑が放っていた光線よりもずっと細いが、それでもおそらくは殺傷力のある光の槍のようなものなのだろう。それが天使側の一人の脳天に突き刺さった瞬間、残りの二人がそちらを振り向く。


 だが、もう遅かった。

二発目はもう一人の喉を穿ち、血を吐かせる。

「好例だ。負けの好例」

 ヒビクが笑う。焦った最後の天使側が刻景を使っているのが見えたが、そのうちに何もせずともその場に倒れた。


 これで天使陣営が残り三人、悪魔陣営が残り四人『紫、紫、緑、青』。失った数はこちらの方がもう既に多い。


「一つだけ教えておくと、焦って刻景を使うのは駄目って事だね。まぁあっちみたいにさぁ……」

 言われて俺はひたすら銃声が鳴り響いている方に目をやる。相手は紫と緑のコンビだ。最後の天使陣営三人がひたすらに銃火器の類を撃ち、投げ込んでいる。流石にそれには魔法使いも手を焼くのか、天使側の攻勢に見えた。

「でもね、使わないのも駄目なんだよねぇ、あの子らが何出来るのかは知らないけどさぁ。意味の無い刻景なんて無いんだよ」


 銃声が止む。


「例えばこの範囲で直近で死んだ人間の数を的確に把握出来たりだとか、さ。相手が一瞬前までいた位置を特定出来るとかさ。まぁあの子らがそれかどうかは知らないけれど、まぁ要はああなる」


 合流した紫が一人の胴をくり抜くように弾き飛ばし、同時に緑がもう一人の首を飛ばした。詳しくは見えないが、天使陣営が最後の一人になったという事だけは分かった。


 そうして、一発だけ銃声が鳴った。


「ああほんと、ほんとに負けの好例を見たね。くれーぐれも! 絶望しないように!」

 ヒビクの言葉が耳に入らない程に、絶望的な光景だった。


 自殺した世界での、自殺。

であれば何故、天使の手を取ったのだろう。


「あれを、やれと?」

 朝日が少し震えた声を出す。

「そーだね。でもあの子達よりゃ頑張れるよ、だって君らラッキーな刻景の持ってるし。今日出た子達はただの自業自得。向こうは経験値が欲しいわけだから、定期的にやろうって誘われるの、それが今日で、それに乗っかって時間を盛ろうとしたおバカちゃん達。でもまぁタイムイズマネーだからね、生きる為にはねぇ」

「まさか通貨まで時間だなんて言わないよな?」

 そうだとしたらファンタジーやSFどころの話じゃない、いつか見た映画か何かの世界だ。

「うんにゃ? 基本的にはロハもロハ、タダでやってけるよ。ただね、何でかな。戦わなきゃいけないの、だってそれが目的の世界なんだから」

「訳わかんない事言ってるのは、分かりますよね」

 朝日が震えながらも、抵抗する。

「分かるよー、けど訳分かんねえもんしゃーないさー。どうかしてんのさ、ほら。ああいうのもいるじゃん?」

 

 天使陣営0人、悪魔陣営4人。勝負は付いた。


――けれどどうやら、向こうにはまだ天使陣営が3人いるように見えるらしい。


 見下されているとでも思っているのだろうか。俺達は魔法使いのように目に見える等級は無い、だからこそ見つけ次第殺すべきだと思っているのかもしれない。だが、俺達は完全なるルーキーで、一人は殺す必要すら無い天使で。


――それでも、こうなる。


「おう、やる気だね」

 俺と朝日の間に光の槍が通り過ぎた瞬間、ヒビクが俺達の両手を掴んで崖を飛び降りる。なんて無理をするのかと思った瞬間に、彼女が天使だったという事を思い出した。

「フラァーーーイアウェーーーーーーーーーー!!!」

 馬鹿天が着地と同時に俺達の手を離し、緑と青を二挺のショットガンで撃ち殺した。残った紫二人は目をパチクリすると同時に俺達から距離を取る。

「邪魔モンはね、いらにゃいの。これでイーブンって事にしよ? ね?」

 朝日は状況を飲み込めずにその場で立ち尽くしている。俺はどうか生きて帰れますようにとだけ願っていた。

「見るだけって言ってたじゃねえか馬鹿天」

「舐められてんだぞ、ぶっ飛ばすのが男じゃろがい!!」

 お前は女だろうと言いたかったが、あんな敵意を向けられてはたしかに仕方が無いとも思った。

「紫坊主! 逃げ帰るなら今のう……」

 ヒビクが情けをかけている間にピュンと光の槍が遮蔽を打ち砕いてこちらへと飛ぶ。

「そっかそっか……じゃあやろうか。二人とも簡単に死ぬなよ、つまんないからね」

 死なずの理由がつまらないなんて、彼女らしいと思いながらも俺はとりあえず朝日の手を引いて遮蔽へと隠れた。ヒビクはガスンガスンなんて銃声を鳴らしながら笑っていた。

「どうかしてんな」

「うん、どうかしてるね」

 安堵の時間では無いにしろ、二人で溜息をついた。想定外を連れて行かれる。この様子じゃあ朝日も俺が寝ている間に何となくヒビクの人となりを理解する程度には苦労させられたのだろう。それにしたって少しぶっ飛びすぎてやしないだろうか。

「どいつもこいつも隠れてばっかじゃ戦いにならないってーーーの!」

 そう言って俺達が隠れている遮蔽にショットガンを撃ち込んだ馬鹿天を俺はきっと忘れない。鳴り止まぬ銃声の音から言っておそらくは両陣営の遮蔽に弾丸を撃ち込み続けている。であればもう出ていくしかない。つまりこれが本当の初戦になってしまう。恨むか恨まないかと言えば、出来れば恨みたい。それでもまだこの馬鹿天が味方であるならば勝ち目もあるだろうと思った。

「あぁもう、行きゃいいんだろって!」

 ネジが飛んでいる、飛ばせと言われても理解出来ない。けれどやらなきゃ味方にやられる。それだけは御免だった。俺は慣れない銃を片手に、朝日もまた慣れていないであろうナイフを片手に、遮蔽から飛び出した。

同じように遮蔽から出てきた悪魔側の紫二人と目が合う、だがその場にはもう、馬鹿天の姿は何処にも見えなかった。

「うーわ」

 俺の声だったか、朝日の声だった。

「うわぁ……」

 それとも悪魔陣営の声だったかもしれない。

要するに、お膳立てというわけだった。見なかった事にして、俺達"四人"は何も無かったかのようにもう一度遮蔽へと隠れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ