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異世界病者の灰を踏む  作者: けものさん
第三章『メン・イン・マジック』
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AngelSide3『終わった日と、終わりの日』

 石鐘響は☓☓☓であった。


 仕掛け屋と別れた後、響はどれくらいの魔法使いや刻景使いを灰に変えただろうか。少しも動かずに、何も食べずに、眠る事も忘れて、ただただ彼女はスコープを覗いていた。仕掛け屋の仕事に彼女は絶対的な信頼を寄せていたからこその行為だったのかもしれないし、単なる暇潰しだったのかもしれないし、芥達を想っていたのかもしれない。とにかく始めの動機はきっと些細な事だったのだ。

 連射が効くこのライフルからは、第一射で倒れた味方に気付き逃げおおせようとした所で、相手が十数人でもなければ大体一掃出来た


 一射一殺。ライフルの弾はまだまだ山程ある。

いつのまにか、目的が代わりつつある事を、彼女自身は未だに気付いていないようだったが、それでも彼女は堕天使になってから、始めて愉悦を味わっているようだった。

「……たのし」

 灰へと変える、灰へと還る、ハイへと、ハイへと。


 もう彼女には、刻景も魔法も必要無い。

 ただ、この山のような銃弾があれば、幸せだった。

「あ」

 たった一言、それだけで彼女はまるで身体を貫き通すような感覚に襲われた。

 目に見えるソレに、気付いてしまった。

「……あ」

 彼女自身、まさかと思ったのだろう。だからこそ、言葉に出来なかった。

 彼女はスナイパーのスコープから顔を上げて、銃を片手に、魔法使いの所へと、狙撃ポイントから駆け足で降りていく。


 ビルの屋上にあった狙撃ポイントから、外に出た頃には彼女が見つけた魔法使い達はもう既にこちらに背を向けていた。

 気付いている様子は無い。だから彼女は、その魔法使い達の一人をその銃でよく狙い、撃った。

 殺す為ではなく、転ばせる為に、足を狙っていく。気づいた魔法使い達が反応しようとするが、四人のうち三人がその場でうずくまる。

 響はゆっくりと、銃をリロードしながらその魔法使い達へと近寄っていく。

「やっ、久しぶり。名前は、忘れちゃったけど。そっちは覚えてるよねー?」

 彼女は笑っていたが、銃口は確実に致命傷にならない位置に向けられている。。

「誰なんて言わせないよー? 誰なんて、言わせないよ?」

 銃声が響く、響く、響く。

 痛みに喘ぐ声の中に交じる「助けて」という声も聞かずに、響は魔法使いを一人ずつ殺さない程度に痛めつけていく。

「こういうの、始めて? ふふ、わかんないもんでしょー? 痛みって」


 唯一足を撃たれなかった魔法使いが牽制するも、響はその魔法を軽く避けて、腹部をショットガンで撃ち抜いた。

「キミがー……、主犯だった?」


 つまりこの魔法使い達四人は、響を自殺へと追い込んだ四人だった。 


「ねぇ、どうだったっけ?」

「ガッ……、アンタ……」

 響はショットガンの銃口で、腹部を撃ち抜かれ膝をついた女魔法使いを思い切り叩き飛ばした。

「ねぇ、どうだった? 私聞きたかったんだよねー。人が眼の前で死ぬのってどうなのかなって」

「まさか……、ほんとに死ぬなん……」

「ズドンっと」

 響く、首が飛ぶ

「ほんとに、死んだってーの」

 

 おそらく響をイジメた主犯と思われる魔法使い、彼女達の姿は大人になっているようだったが、結局は異世界病となり死んでいたのだろう。

色格はそれぞれが緑程度のようだったが、響の戦闘センスの前で何が出来る事も無く。不意打ちで足を撃ち抜かれた為に、ただただ「ごめんなさい」と呟くだけだった。

「私ってさ、死んだんだと思う? それとも殺されたんだと思う?」

 響は、主犯が灰になったのを見て、戦意を失った取り巻き三人の前にしゃがむ。

「えっ…………と」

「遅いってば」

 響く。腕が飛ぶ。叫び声はもう意味のある言葉を発さない。

 響く。喉が潰れる。そのうちに、灰になった。


「んー、じゃあキミは?」

「だって、飛び降りたのは……」

 こんな時でさえ、響はリロードを欠かさない。二発撃ったショットガンに弾を込め直す。

ソレに怯えながら、残った二人の魔法使いは、とどのつまり、逆襲されていた。

「うん、飛び降りたのは私。でもさぁ、思うんだ。アレってさぁ、キミならどうしてた? キミらは自分で死を選んだんでしょ? でも私は多分選べなかったと思うんだ。キミなら、飛んだかな?」

「えっと、いや。私はだって、乗りで」

 響く。頭が飛ぶ。

「うん、じゃあ乗りでね」

 

 最後の一人は、もう、涙で顔がグシャグシャになっていた。

「ねね、キミが最後だって、分かってたでしょ?」

「……はい」

 明らかな大人の姿で、泣きじゃくる魔法使いに、高校生程度の姿のままの響が笑って話しかける。

「キミは嫌だったもんね。だって次はキミだっただろうし。大人んなっても綺麗だなー、まぁきっと私の方が勝ってただろうけど!」

 主犯が一人に取り巻きが二人、それに付き合わされる奴隷が一人。そんな構図はいつまでも響の頭には残っていた。顔も、成長したからといって忘れやしなかった。ただ、名前だけは記憶から『ロスト』してもらっていた。

「私はさ、結局飛んだんだ。だからやいのやいの言うつもりは無かったんだけど、やっぱムカつくね。へへ」

 笑う子供と、泣きじゃくる大人。その対比は滑稽としか言いようがなかった。

「でもさ、キミも止めてはくれなかった。というか誰も止めてはくれなかった。だからさ、私はこんな場所に堕ちちゃったんだと思うんだよね。どう思う? おねーさん?」

「後悔は、したの。沢山、謝った。届かないんだろうけれど、間違った事だったって事くらい、分かる、けど」

 途切れ途切れの言葉が、ただ流れる。

 たった今生まれた灰が、風に乗せられて飛んでゆく。

「なら、代わりにちゃんと生きりゃいいものをさ。キミくらいはまともになるんだと思ってたよ。結局最後まで、アイツらの腰巾着? 大人でしょ?」

「私達も、もう私達以外、いなかったから」

 その言葉に、響は少し驚いたように目を見開いた。


 自殺の主犯格達のグループ、最後に響が見た芥はカメラを持っていた。彼自身から詳しく話は聞いていないにしても、あの事件が公になったならば、彼女達はそれなりの制裁を受けるはずだ。

「なーるほどね。表沙汰に出りゃそりゃ後は一蓮托生ってわけか。そんで死ぬ時も一緒。じゃあキミ、連れて来られたね? 異世界病じゃないでしょ?」

「あの子達は、異世界病だったと、思います。私は、どうなんだろう。もう嫌だとは思ってたし、やり直せるならとは思っていたけれど……。でも、あれ? 異世界病って確か……」

 少しずつ落ち着いて来たそのイジメグループの最後の一人は、時系列に気づき始める。

それはこの世界に於いて、知ってはいけない事の一つだった。だが当事者ならば、誰もが気付く可能性のある話。この奴隷を担当したいた子は、素行こそ悪いとされていたが、それは奴隷という立場でイジメの主犯格に連れ回されていただけだった。

 だからこそ、その地頭も悪いわけではない。

「あぁ……駄目だよ。見逃してあげようと思ったのに、駄目だよ。もう、何でさ」

「わ、私に出来る事ならどんな……」

「無いよ」

 その言葉は、真実であり、残酷な終わりの言葉でもあった。


「ごめんね……さよならだ。でもキミにだけは教えてあげる。この世界はちゃんと異世界だったよ。たださ、始まりの二人が創ったって事にされているけれど。それってどういう意味かな? この天使と悪魔が戦うという構図を生み出しただけで。本当に世界自体を創った人は、別にいたりして、ね?」

 響は、怯えて命乞いをするかつてのイジメグループの最後の一人に銃口を向ける。

「せめてキミは一撃で、ありがとね。私の墓前で謝ってくれてありがとうね、届かなかったけど」

「ごめんなさい、ごめんなさい。石鐘さん……」

 その言葉は、命乞いのようでは無いようだった。

 その事に気付いていたか、気付いていなかったかは分からない。

「うん、許す。キミだけは許すよ。今、届いたから。次はちゃんとした世界に行けたらいいね」

「ごめんなさい……あ……」 


 響かず。胸が、痛んだ。

 響かず。涙が、流れる。

 

 響く。息が、止まった。

 響かず、灰が、舞った。


「あーあ、面白くなくなっちゃった」

 それは、彼女の壊れかけていた自我を元に戻すような、逆襲劇の終わりだった。


「やりたい事、終わっちゃったなぁ」

 呟きながら、彼女は頬に伝う涙を拭う。彼女自身、こんな事をしたかったかも分からない。だけれど少なくとも最後の一人については、思う所があったのだろう。自分が狙われていなければ彼女だったという事を、響は知っていた。それを知っていてあえて、彼女はイジメられ続けていたのだ。最後の一人が気に病んでいる事も、気に病んでいた事も知って、だけれど尚、気付いてしまったからには殺さなければいけない。

「誰かに、やられるよりかはさ」

 響は自分を納得させるように呟き、屋上へ辿り着く。丁度スナイパーライフルのスコープを覗くと、数人の魔法使いが見えた。


 響く。


 響く。


 響く。


「楽しく、ないな」

 響は呟いて、スナイパーライフルを丁寧に解体し、仕掛け屋が残したバッグに詰める。

装備を全て持ってから、彼女は不敵に笑う。

「でも、クライマックスになんてさせてあげない」

 

 石鐘響は☓☓☓であった。それは『自殺者』と呼ぶべきだろうか。それとも『被害者』と呼ぶべきだろうか。その真実ははもう、彼女ですら分からない。

「白黒くらいは付けなきゃな」

 行くべき場所は分かっていた。

 奇しくもその行き先が、芥達と同じだろうと言うこともまた、分かっていた。

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